第83話 完全攻略!
生きている。
怪我も……ない。
ふわり、とアレンたちは地面に降り立った。ユーリの重力操作魔法が、彼らを救ったのだった。
「あ、ありがとう、ユーリ」
「危ないところでした……しかし、何階層か一気に落ちてしまったようですね」
静かだ。
そして、薄暗い。
エクレールが雷で周囲を照らした。
「……最下層ね、ここ」
アイリスが言った。
最下層。
ここには【ダンジョンマスター】が存在する。
奥の闇から、巨大な犬の顔が現れて、吠えた。それだけで全身にびりびりと痛みが走る。
顔は一つではない。三つあった。
こいつは──ケルベロスだ。
「でけー犬!! こいつ、レオンの親戚とかじゃねーよな」
セブンの軽口に応えられるものはいない。
退くことはできない。戦って勝つしか、道はない。
ケルベロスが三つの口から炎を吐いた。それが戦いの始まりとなった。
セブンが【英霊の盾】でケルベロスの攻撃を防ぐ。ブルーが硬質化してケルベロスに突撃する。
アレンは雷の魔法を全身に流し、速度を上げる。雷の魔法はケルベロスにはあまり効かないようだった。それでも魔法を撃ち続ける。ユーリもそれに続き、魔法を放つ。放つ。放つ。
ニコルの癒しの魔法が、ボロボロになっていく皆を回復させる。キースはアレンから受け取っていた攻撃用のアイテムを的確なタイミングで使い、ケルベロスの足を止めている。
それぞれがそれぞれのやれることを最大限に、そして自然と連携を取り合い、ケルベロスの体力を削っていく。
「──ひとつ!」
ついに、セブンが隙をついて、ケルベロスの右の頭に魔剣を突き刺した。
ケルベロスの絶叫。怒りの咆哮。
「あ! アイリス!」
「こっち来ちゃったら仕方ないわね。これは助太刀じゃないんだからね! 自分の身を守るためなんだから!」
そういってアイリスは、ハンマーでケルベロスの左の頭を吹き飛ばした。跡形もなく。
「うげ……え、えげつねぇ」
セブンが恐怖する。ケルベロスもアイリスの殺気にたじろいでいた。
「今だ!」
アレンがケルベロスの中央の頭に雷の短剣を突き刺した。そしてその体内へ雷を流し込む。
『ギャアアァァァァァ──』
ケルベロスが動きを止め、ゆっくりと、その身体を地面へと沈めた。
しばらくした後、その身体はさらさらと砂のように崩れて、やがて消えていった。
「なんか、でっけえ牙だけ一本残ってんな」
セブンがそれを拾い上げる。
「ケルベロスからのドロップアイテム。それが討伐の証となるわ。これで条件のひとつは達成ね」
アイリスが言った。
「あとは……【新緑の宝玉】ってやつを見つけりゃいいのか。しかしどこにあるんだろうな。おれ、もうくたくた」
「そういえばぼく、入り口の近くのところでキレイな石ひろったよ」
ブルーが身体の中のどこからか、緑色に輝く玉を取り出してみんなに見せた。
「──これだ」
試験をクリアした冒険者から聞いていた特徴と一致している。
「ブルー……なんか拾ったら、ちゃんと報告しようぜー」
「え?」
どっと疲れが押し寄せてきた。
「じゃあ、あとは帰るだけかー。帰るまでが冒険! しんどいぜー」
「入り口にポータルを設置してあるのですぐに帰れます」
ユーリがしれっと言った。
無理せず、いつでも帰れたというわけだった。これも言っておいて欲しかったとアレンは思ったものの、ユーリがこのことを黙っていたのはわざとだろうな、と思い直した。
いつでもすぐに帰れるという安心感が緊張を崩していたかもしれない。未熟な自分たちにとって、それは油断に繋がっていたかもしれない。
油断、即、死。
クライムの言葉と共に、何故かシータの姿が思い返されて、アレンは少しだけ震えるのであった。
「……ここまで来たんだ。転移魔法は使わずに戻ろう。危なくなったらお願いすることになるかもしれないけれど」
アレンのその言葉を聞いて、うえーと言ったのはセブンだけだった。
「そう言うと思いました」
「まぁ、途中の階層すっ飛ばしてきちまったからな。レアアイテムがあるかもしれないし」
「ボクも、もう少し探索したいです!」
「ぼくもぼくも!」
皆が賛同するので、セブンも仕方なくついていくことにするのであった。
「あ、その。わたしも同行していいかしら。試験官の役目はここまで。戻ったら文句なしの『合格』って報告するから」
アイリスの言葉に、アレンたちは喜ぶ。
そして近くで同行してもらえれば安心だ。また迷子になったりでもしたら、もう探し出せる気がしなかった。
こうしてアレンたちの中級冒険者試験は無事に終わり、彼らは晴れて中級冒険者となるのであった。
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