第82話 アイリスが降る!

 9階層。

 モンスターの群れがパーティに襲いかかる。

 凶悪なトカゲ型モンスター、バジリスクが猛毒を吐き散らす。

 そして──


「ミノさん! どうしてここに! ミノさん! どうしたんだ、そんなに赤くなって! 温泉入りすぎたのか、ミノさーーん!」

「セブンちがう。それはミノさんじゃない!」

 赤褐色の肌のミノタウロスの亜種が三体。いずれのモンスターも、雷の魔法に耐性があった。事前に情報を得てきていたアレンは、これに冷静に対処する。雷の魔法の力がなくても、彼にはアイテムを自在に使いこなす知識があった。それを最大限に活用し、切り抜ける。


 そして『幸運』が彼らに味方する。

 突如作動した【大穴】のトラップが、モンスターの大半を落とし命を奪ったのだ。キースは【危機感知】のスキルが作動しなかったことに驚いたものの、その原因が何かを理解していた。

 


 ──10階層。

 ここにも【安全地帯】は設置されている。


 ここまでは順調。アレンはパーティに無理をせず、回復に努めることにした。

 この先15階層にも【安全地帯】が存在する。そこから先は、持っている地図には記載されていないエリアとなる。モンスターも手強くなり、マナも薄くなる。思うように魔法が使えなくなるだろう。


 本番は、ここからだ。



 それにしても、アイリスは大丈夫だろうか。と心配していたアレンも、いよいよアイリスのことを考える余裕がなくなる。

 15階層から下はダンジョンの雰囲気が一変した。

 青い植物が不気味に光っている。見たことのない白いキノコのようなものが胞子を噴き出している。水の中ではないのに、魚のような生き物が宙を泳ぎ、これまた見たことのない大きな昆虫をばりばり喰らっている。

 広大な空間に、小さな黒い雲が漂っている。その雲からは時々炎が噴出されていた。


 そして、巨大なモンスター。一つ目の巨人──サイクロプスが現れる。

 ギョロリ。巨大な単眼が、アレンたちの姿を捉えた。


 ──ドゴォォォォォ……。

 轟音。

 次から次に理解が追いつかない状況が続き、アレンたちを恐れさせた。


「今度はなんだってんだ……」

「大丈夫……! 何がでてきても、切り抜ける!」

 アレンは雷の短剣を抜いた。

 頼もしくなった。誰もがそう思った。


 天井が、崩れる。


「──あら?」

「……うん?」


 なんと。

 上から降って来たのは、アイリスだった。

 サイクロプスの頭がハンマーに潰され、巨体を地面に打ちつけていた。


「あっ! た、助けたわけじゃないからね、これ! 不可抗力ってやつよ!」

「……アイリス。無事で、よかった」

 アレンがそう言うと、アイリスはさらにあたふたする。

「当たり前でしょ! わたしはこれくらいのダンジョン何度も攻略しているんだからね!」

 びきっ。

「ん? びきっ?」

 アイリスが地面を見る。皆も、一斉にそこを見た。


「あ、やば──」


 地面が崩れ、アレンたちはそこに飲み込まれてしまうのだった。

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