第16話 教えを乞う

 僕の剣は雷をまとい、ヘルハウンドの首を跳ね飛ばしていた。

 ヘルハウンドの首は炎に包まれ、やがて黒く霧散していった。


「──いっづぅ!?」

 全身に激痛が走る。あまりの痛みに僕は倒れ、もがき苦しむ。呼吸が、できない。

「全身の筋肉が焼き切れ、断裂しています。今、治癒魔法をかけます」

 ユーリの声が聞こえた後。身体が温かくなって、みるみる痛みがひいていった。

「無茶をしますね。雷を全身に流して無理やり身体能力を向上させるなんて。肉体の限界を超えた力を発揮すれば、そうなります。しかし、おかげで助かりました。ありがとうございます」

 ユーリが頭を下げるのが見えた。

 雷を全身に流した?

「アレンちゃん。無意識にアタシの中にある魔法を引き出したんだよ、今。かなり危険な魔法……一歩間違えると、命の危険があるくらいの……」

 エクレールが青ざめている。


 ふむ。とユーリが僕を見る。

「あなたは魔法を扱う素質があるものの、まだ制御ができないようですね。学ぶ必要があります。もう、動けますか?」

「あ、うん……」

 僕は立ち上がる。頭が重たい感じがするけれど、身体の痛みはきれいさっぱり消えている。

「それでは私は戻ります。あの2人……えっと、名前忘れました……を置いてきてしまいましたので」


「待って、ユーリ!」

 僕はユーリを呼び止めた。

「ユーリ。僕に……魔法の扱い方を教えてください。お願いします」

 エクレールを悲しませないためにも、僕はこの力の使い方を知らなければならない。


「……あまり気乗りしません。私は人に物を教えることが苦手です。それに、その力は危険です。多用しない方がいいでしょう」

「──本」

「え?」

「この中央都市には常に新しい本が発刊されているんです」

「え? え?」

「新しい文献や小説なんかの創作物……日々、本は生み出され続けています」

「まさか」

「僕に魔法の扱い方を教えてくれたら、何冊か買うことを約束し」「10冊」

 言い終わる前にユーリが両手の指を広げた。

「最低10冊で手を打ちましょう」

 想った通り。やはり食いついてくれた。よほど本が好きなんだなぁ。ちょっと卑怯かなと思うけれど、背に腹は代えられない。


「わかりました! よろしくお願いいたします!」

「では……一度戻りましょう。邪悪なマナの残滓がモンスターたちを狂暴化させ、おびき寄せているようです。今日の探索は切り上げた方がよいでしょう」


 奥の方から、獣のような唸り声が聞こえてくる。

 少し名残惜しいけれど、またヘルハウンドのような凶悪なモンスターが出てきたら成す術がない。僕たちは今日の冒険を終え、地上へと戻るのであった。



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