第109話 闘神の恋詩
「【白銀の闘鬼】……以前よりも動きがよくなったな。それにそれは氷の精霊の力か」
「ちわっ! おれっち、白雪! よろしくな!」
ハンマーの中の白雪が勝手にしゃべる。
なんだあいつら! バケモノか!
王の軍勢はあっという間に崩された。これならばすぐに援軍が駆けつけてくることだろう。多ければ多い方が好都合だ。
「ところで貴女。ずいぶんアレンさんにご執着みたいだけど」
ふん、とセレナは鼻を鳴らす。
「アレンは我が友。友とは共にあるべきものだ」
「ふぅん。じゃあ、恋人の関係は望んでいないのね」
「恋、人? ツガイ……ということか?」
「ツガイって……他に表現ないわけ?」
「──アレンと、恋人? 考えたこと……なかった」
エルフと人間が結ばれる。そんなものは伝説上のことで、実際にはありえないことだった。特にセレナは高貴なるハイエルフである。彼女にとって人間とは下等種族。そう、見下していた。
アレンと出会ってからその考えは改めていたものの、エルフと人間とは根本的に違う存在であるという認識は変わらなかった。そのはずだった。
「ま、ただの友達ならアレンさんが誰と恋仲になっても関係ないわよね」
セレナの表情が、変わった。いつもの冷静な顔ではない。彼女は初めて、感情を剝き出しにした。
「──駄目だ! そんなことは……認めない!」
「ただの友達なんでしょ? 認めるも認めないもないじゃない。喜んであげなきゃ」
アレンが誰かとツガイに? 友として、祝福する?
嫌だ。そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。
セレナは理解した。自分はアレンと友人になりたかったのではなかったのだ。
これは火をつけてしまったな。いや、これは業火だ。アイリスは少しだけ後悔した。しかし、これで正面から叩き潰すことができる。遠慮なく、全力で。
セレナを含めて、アレンに惹かれるものたちはみな、彼のマナが目当てだ。本当の彼を知ろうとも、見ようともしていない、そんな中途半端な連中にあの人を渡すわけにはいかない。
「わたしはアレンと……ツガイになりたい」
「へぇ。いいの? 貴女、エルフなんでしょ。人間を見下しているくせに。同族からも、他の種族からも嫌悪されることになるわよ」
「……わたしは決めた。古い伝統など破る。わたしは、エルフの新たな歴史となる」
「ふぅん。やれるものならやってみなさい。っと……おしゃべりはここまでね。アレンさんにいいところ見せたいなら、せいぜい頑張ることね」
「言われなくとも!」
二人のマナは赤く、白く、燃え上がる。
軍勢は足を止めた。
凄まじい圧力。分厚い壁に阻まれているかのようだった。
近づけない。近づいてはいけない。
戦え。死ぬまで戦えと幻惑花の香りが囁く。
しかし、誰の身体も動かなかった。
それは恐怖。絶対的な恐怖が本能に訴えかける。
戦ってはならない。今すぐに逃げるのだ、と。
この日より。
砂漠の王国の【闘神】の伝説として、アイリスとセレナの戦いぶりは語り継がれることになる──。
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