第108話 最強のふたり
宮殿に到着し、アレンたちの手錠は外された。そしてそれぞれに装備が手渡される。宮殿には結界が張ってあるため、そう簡単に『敵』から感知されることはないだろうとラミルは言った。
「時間がありません。この国で今起きていることを、そしてこの先何が起ころうとしているのか、お話しします。その解決のため、あなた方の力を借りたい」
皆は無言で頷いた。この国で起きている異変はただごとではない。早急に解決しなければならない。それができるのは、今この場にいる自分たちだ。皆、同じ想いであった。
「一カ月前。モンスターたちを率いてやってきた黒いモンスター……魔獣と呼ばれる存在に、この国は乗っ取られてしまいました。彼らは幻惑花を使い、国民たちを洗脳したのです」
「魔獣が国を乗っとったですって!? 国を手に入れてどうするつもりなの……?」
アイリスが訊ねる。
「効率よく人間を喰らうため、と話していました。ここは奴隷商人の出入りもあります。外部からさらってきた人間を奴隷として王族、貴族たちに売りつけることもあるのです」
奴隷商人から買った奴隷を、喰らう。
それだけではない。モンスターの力を利用し、他国を侵略し、領土を拡大することで、より多くの人間をエサとして『飼育』しようというのだ。
「そんなバカげたことがまかり通るとでも思ってるのか」
キースが呆れたように言った。
「思っているのでしょう。我々は運よく幻惑花の支配を逃れ……彼らに従うふりをしました。しかし、気づかれるのも時間の問題でしょう。その前に少しでも戦力を集めることに徹しましたが……」
その兵力は心もとない。
相手は魔獣だけではない。この国の軍隊もだ。まともにぶつかれば勝算はない。中央都市のギルドからの応援を待っている時間的猶予も、もはやない。
「軍隊が相手か……うーん、手加減できるかしら」
「魔獣ごときに国を乗っ取られる連中に手加減する必要などない」
アイリスとセレナはこの状況にも動じている様子はなかった。
「幻惑花の【本体】を叩く必要があります。そうすれば、この国の民の催眠状態を解くことができるでしょう」
と、ユーリが言った。
「幻惑花の……本体?」
「はい。町中に咲く幻惑花の根はすべて、王の宮殿へとつながっているようです。おそらくあのニセモノの王こそが、幻惑花の本体であり、魔獣だと思われます」
「じゃ、それをやっつけにいきましょう」
「いえ。アイリスさん、セレナさんは別行動のほうがいいでしょう」
考え込んでいたユーリが、ここで口を開いた。
「なぜ?」
「できるだけ激しく暴れて回って、敵の注意をひきつけてください。あなたたち二人が適任だと思われます。幻惑花に惑わされないように小規模な結界を張りますので、思う存分暴れまくってください」
「魔獣の方は大丈夫なの? こんなことを考えつくヤツなんだから、かなり手ごわそうだけど」
「それは私とアレンさんにお任せください」
わたしもアレンと一緒がいいのだが……というセレナの意見は無視された。
「あの、ぼくとキースさんはどうすれば……」
ニコルは自分では役に立てないのだろうかと、悲しそうな表情をしている。
「あなたとキースさんにも重要な役割を担ってもらいます。ええと、ラミルさん。この紙に書かれているアイテムを調達できますか。今すぐに」
ラミルはユーリから差し出された紙を見た。紙にさらさらと文字が浮かんでいく。
「これを今すぐに……ですか。……む、これならすべて宮殿に在庫がありますね。すぐに持ってきます」
ラミルと衛兵たちは、宮殿中から指定されたアイテムをすぐにかき集めてきた。
「アレンさん。これとこれ……【アイテムクリエイション】の力で合成できますか?」
「え? うん、やってみる」
アイテムクリエイション。その力のことをアレンは、パーティメンバーには話してあった。
まるで、奇跡のような力。アイリスはアレンのその力のことを知らなかった。その力を目の当たりにした今。かつて自分だけでなく、パーティメンバーも救われていたのだと気づかされた。
その事実を知ったアイリスは、よりアレンに惹きつけられていた。
「この力、他言しないように」
ユーリはアイリスとラミルに向かって言った。
言ったらわかってるな、てめぇら。何だかそんな声が聞こえてくるような気がした。
「ニコルさん、キースさん。この液体を、町中の幻惑花にかけて回ってください。その動きは感知され、何かしらの妨害にあうことになるでしょう。しかし、アイリスさんたちが阻止してくれるはずです。それでも危険なことには変わりありませんが……」
「……大丈夫です! やります!」
「いい返事です。それでは、お願いします」
ニコルとキースに手渡されたのは、幻惑花を枯らす”薬”だった。幻惑花はすべてつながっている。ゆえに、町中に咲いているそれらを枯らすことで本体へのダメージにつながる。少しでも弱体化できれば、勝率は高くなるだろう。
「ラミル様! 宮殿を、王の軍勢が取り囲んでいます!」
「……来たか」
「では、アイリスさん、セレナさん。お願いします」
「「任せて」」
二人の声が同調する。
なんて頼もしい背中だろう。アレンは二人の背中を見送った。
「頃合いを見て、私たちも行きましょう。ニコルさん、キースさん、くれぐれも無理はなさらぬよう」
「おう、こっちは任せておけ」
宮殿が、揺れた。
皆はそれぞれ顔を合わせ、頷いた。
──作戦、開始。
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