イリス

 場面は変わる。


「イリス。本当に……【騎士団】に入るのか」

「うん。もう決めた! あたしはお父さんと一緒に、吸血鬼とか、悪いニンゲンたちをやっつける!」

 イリス。ロイドがそう名付けた少女は目を輝かせて言った。

「おめぇなぁ。子供の遊びじゃねーんだぞ。きついし、しんどいし、いてぇし、苦しいし。いいことなんてありゃしねぇ」

 本音である。それでも彼が戦うのは、友のため。理由はそれだけだった。それだけで十分だった。

 ロイドはイリスの目を見て、ため息をついた。


 ──おんなじ目をしてやがるな、あいつと。言い出したら聞きやしないんだから。


 ジャンはそんなロイドの思考を感じ取った。しかし、むしろ、イリスの表情の作り方はロイドに似ていた。

 不器用ながら、ロイドはイリスを懸命に育てた。その想いと姿勢は、イリスにはしっかりと伝わっていた。


「まぁ、体験入団させてみるか。無理だと思ったら、すぐにやめるんだぞ」

「……大丈夫!」


 ロイドはこの時、イリスがすぐに諦めるものと思っていた。

 しかし、彼女の意志は強固なものであった。

 


 毎日のように見る悪夢。

 恐ろしい怪物たちが人々を喰らい、火を放ち、すべてを壊していく光景がやけに鮮明に感じられた。

 痛い、苦しい。息ができない。何もかもが漆黒に閉ざされていく中、闇を砕き、手を差し伸べる存在があった。


 ──お父さん。


 イリスはロイドが本当の父親でないことを知っている。

 彼はイリスに多くを語らない。過去に何があって、彼のもとで過ごすことになったのか、イリスにはよくわかっていない。きっと、あの悪夢のようなことが自分の目の前で起きたのだろうと思う。


 ロイドは自分を助けてくれたのだ。光を与えてくれたのだ。

 彼は毎日のように『悪』と戦っては、傷つき、ボロボロになって帰ってくる。

 

 助けになりたい。そしてあの悪夢の原因となったと思われる──『悪いやつら』をやっつけたい。そのための力が欲しい。お父さんみたいに強く、優しく在りたい。


 しかし、本当の想いは。


 イリスは胸の前で、ぎゅっと手を握り締めた。

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