そしてふたりは出会う

 酷い有様だった。


 彼ら吸血鬼は、あの戦場へとやってくるまでにいくつもの町や集落を蹂躙してきたらしい。

 徹底的な破壊。生き残ったものはなく、動くものはグールたちだけ。

 血と死のにおいに包まれた町を巡って、王とロイドたちは死者を弔った。


「あいつらは……どうしてこんなことができるんだ」

「恨み。他の連中はどうかわからんが、ヴラドはニンゲンに対して強い恨みを抱いているようだ。それが、他の吸血鬼に伝播している」

 恨み。

 なぜ、人間を超越する彼が人間を恨むのか。何が彼を突き動かしているのか。理解できなかった。


 ──けて。


「……おい、今、声が聞こえなかったか?」

「声?」

 聞こえた。蒼い髪の男の中にいるジャンも、確かにその声を聴いた。


 ──たすけて。


 崩れた建物の中から、微かにその声は聞こえてきた。

 二人は瓦礫を取り除き、その声の元へとたどり着く。


 酷い怪我だった。手足は潰れ、顔の左半分は焼けて溶けていた。それでもその幼女は、生きている。

 屍の王は自らの生命力を幼女に分け与えた。

「おい、王サマ! はやく回復! 回復!!」

「もうやってんだようるせぇな! おれのエナジーはフツーのニンゲンにゃ毒なんだよ。身体の回復力は最大限に高めたが、後は他のヤツの回復魔法と、栄養をだな」

「ちっ、肝心な時に役にたたねーな! 王サマ、空間転移! 早く城に戻るぞ!」

「おまえ、おれのことなんだと思ってるの?」

 屍の王はげんなりしてため息を吐く。

 意識だけの存在のジャンはすでに、王と呼ばれるその男が誰なのかわかっていた。そして、自分と同じこの蒼い髪の男は恐らく──。


 そこで場面が変わった。



「ずいぶんと元気になったなぁ、あの子」

 潰れた手足は治すことができなかったが、精巧な義手、義足のおかげで走り回れるようにまでなっていた。顔の左半分の火傷も、皮膚の移植で跡が目立たないまでに馴染んでいた。

 まだ幼く、両親が亡くなったことをちゃんと理解できずにいるようだった。


「ロイド。おまえ、あの子の親になれ」

 ロイド。この蒼い髪の男の名前だ。なんだか似合わねーな、とジャンは思った。しっくりこないというか、なんというか。

「ああ? オレが、親? やだよ」

「あの子、おまえに妙に懐いてるじゃないか。おれは忙しいんだから、おまえが面倒みろ」

「オレだって忙しいっつーの。最近あっちこっちで問題ばっかり起きてるじゃねーか」

 ロイドの記憶が、ジャンに共有される。

 吸血鬼たちが、各地で【災厄】を起こそうと活動しているのだ。それを未然に防ぐためにロイドたち【騎士団】は奔走しているのであった。


「ロイド! はやく、きて!」

「ほら、おひめさまがお呼びだぜ、ロイド」

「……けっ」


 めんどくせーなー、とぶつぶつ言いつつも、ロイドは歩いていく。ジャンはもう、この男があの少女の親代わりになる決意をしていることを知っていた。

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