四天王
「あー、よく寝た」
棺桶から起き上がり、大きく伸びをする。
「お目覚めですか、おぢょうさま」
「……ジョージ。目覚めにあなたの顔は最悪ね」
「最高の誉め言葉でございます。ちょうど、皆さまがお揃いになられておりますよ」
「皆さま?」
真紅のドレスを纏い、広間へと向かう。
円卓のテーブルを囲むように座っている、懐かしい顔ぶれがあった。
「四天王勢揃いじゃない。珍しいこともあるものね」
「おはよ、【レディ・ノスフェラトゥ】」
「そろそろ目覚める頃だと感じてな。こうしてやってきたんだ」
違和感。それが何か、彼女にはすぐにわかった。
あの猛々しい魔力と迫力。それが自分を含めたこの四天王からまるで感じられない。
「──力が、回復していない?」
「予定よりずいぶんと早くに目覚めてしまったみたいだーよ」
「それか、我らが与えられた【復活の珠】が完全ではなかったか」
「ふーん。ま、あたしは不死身だからそんなことないだろうけど」
「いや、カミラちゃんも弱ってるよん。魔力」
「うそぉっ!?」
本当だ。【レディ・ノスフェラトゥ】カミラは以前のような、溢れんばかりの魔力がなくなっていることにようやく気付いた。
「──魔王様が……倒されたんだよん。カミラちゃん」
「はぁっ!? 魔王様が!?」
噓でしょ。カミラはうそでしょ、とひきつった笑いで、強張った顔の他の四天王たちを見た。暗い沈黙が、事実だと物語っている。
「いまや魔界も人間たちの領土となってしまった。人間どもの建築物の開発は進み、魔界はもう、以前の姿ではない」
カミラはバン、とテーブルをたたく。
「あんたたち! まさかそれをぼんやりと眺めてたってワケじゃないでしょうね!」
「落ち着くだーよ、カミラっち。そりゃ、オラたち抵抗しただーよ。でも、あいつらつえーのなんのって」
「一度負けた相手だからな……しかもこちらは不完全復活の身」
カミラはぎりぎりと歯ぎしりをする。
「信じられない。なんでこんなことに……」
魔王様が負けた?
そんなことが本当にあり得るのか?
カミラはどうしても信じることができなかった。
「それで、こうして集まったからには何か事を起こすつもりなんでしょう? 人間たちをこのままのさばらせておくわけにはいかないものね」
「いや。俺たちはおまえに”余計なことはするな”と伝えにきただけだ」
「はあっ!?」
「カミラちゃんはまぁ、倒されても何十年か何百年かすれば復活するからいーけどさ、ウチら次はないのよん。中級冒険者レベルまで落ちたこの力じゃ、どうにもならないよん」
「それでも──」
魔王様直属の四天王なのか。言いかけて、カミラは言葉を呑んだ。
吸血鬼の真祖。魔王様が現れるまで魔界の頂点にいた自分と、ただ力を与えられて従うだけのこいつらとではそもそもの格が違ったのだ。
なれば。
自分が再び、魔界の頂点に返り咲くのみ。
カミラは目を閉じ、息を吐いた。
「これは余計なことなどではない。我は、我が魔界を取り戻す。我が新たな魔王となり、世界を取り戻す」
他の四天王たちは皆、ため息をついた。
「あー。やっぱ予想通りだな」
「んだ」
「じゃ、仕方ないかー」
三人は立ち上がる。
瞬間、カミラの身体が硬直する。
「「「──封魔結界──」」」
三人が同時に力を放つ。
「き、さ、ま、らあああぁあ! なにをっ!」
「今のおまえが何かできるとも思えないが、ま、念のためってやつだ」
「人間たちとの関係も良好だし、かき乱されたくないんだよんー」
「んだんだ。バランスが崩れちまうだ」
カミラの身体が闇に沈んでいく。
「貴様ら……覚えていろよ」
その声だけを残し、カミラは消えた。
「おーこわ。典型的な捨て台詞残していったな」
「ま、次カミラちゃんが戻ってくるときはウチらみんな死んでるかもだよん」
「カビくさい思想から抜け出せない、憐れな存在だーよ」
──ピキィィン。
頭の中で、音が鳴る。
ふと。
三人は顔を見合わせた。
「ねぇ。変なこと言っていい?」
「ああ。俺も今、ありえないことが頭に浮かんできた」
「オラもだ」
どういうことだろう。そんなことありえないはずなのに、そう感じてしまったのは。
三人は同時に言った。
「──魔王様って、本当に存在したのか?」
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