裁定者
大気が、マナが震える。
強大な存在たちが、空に浮かんでいる。クライムは鋭い視線を向けた。
幾度も相対してきた、宿敵。彼らを打倒するのにどれだけの命を費やしたことか。
「──ドラゴン。ドラゴンバスターズを突破してきましたか」
十数匹のドラゴンの群れの中央に、ひと際巨大なドラゴンの姿があった。
【ルビー】だ。
「ふはは、女神の創り出した【裁定者】か。余を裁きにきたということか」
ルビーがきゅるると鳴き、口を大きく開けた。
放たれた巨大な火球は、中央都市を覆い始めている黒い水晶を破壊する。
──いまだ。
ユーリは【空間転移】の魔法を発動させた。
「しまった。逃走手段を用意しておったとはな。追うか?」
「……いえ。どこに行ったのかは検討がつきますが、ドラゴンの群れは簡単には突破できません。仕方ありません、アレンさん抜きで計画を前に進めましょう」
「ならば、さらに闇の力を増幅させる必要があるな」
魔王とレイヴンを余所に、マルグリットは少しだけほっとしていた。
──【光の力】をもって生まれた可能性のある子がいる。
それを感知したレイヴンは、ルートの町にマルグリットを派遣した。
彼女は『町の住人である』と周囲を洗脳し、時に顔を変え、ずっとルートの町でアレンを監視していたのであった。
ただの監視対象でしかない。しかし、彼の清らかなままの直情さを受けた結果、彼女の心は次第に変化していった。
ある程度距離を置いていたとはいえ、40年間もアレンと共にあったマルグリットである。それは母性への目覚めだったかもしれない。あるいはもっと別の何か。
あれ以上、アレンが痛めつけられていたら、彼を守るために飛び出していたかもしれない。マルグリットはそう感じていた。
できることなら。
このまま、心を沈めたまま、じっとしておいてほしい。
この世界が終わる、その時まで。
そう、願わずにはいられないマルグリットであった。
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