第59話 暗き道を歩む者

 ──声が、聞こえる。

 誰の声だろう。いや、僕はこの声をよく知っている。


「アレンちゃん、大丈夫!?」


 僕は……思い出した。


「あ、あ……エクレール。僕、もしかして……今、寝てた?」

「寝てたというか、意識を失っていたというか」

「アレンさん。何があったのか、覚えていますか?」

「……えっと。巨大な黒い魔獣が……あれ? どうなったんだっけ」

「……二人がかりで制御してもなお、心身に影響を及ぼしてしまったか。すまない、アレン。またあなたに助けられた」

 セレナさんがぎゅっと僕の手を握っている。温かくて、やわらかい。

 

 周囲がさわがしい。

 冒険者たちだ。みんな……来てくれたんだ。

 魔獣は一体、どうなったのだろうか。


「魔石の消滅と共に、他の魔獣たちもすべて消えたようです。立てますか、アレンさん」

「う、うん」

 この子は……そうだ、ユーリだ。まだ頭がぼんやりする。白い靄がかかっているみたいな感じだ。

 身体は……。少しふらつくけど、なんともないようだ。


「……この魔法はもう使わない方がいいでしょうね」

「この魔法?」

「いえ、こちらの話です。町に戻り、ゆっくり休みましょう」

 ユーリが僕に肩をかしてくれた。

「えっと、そうだ。アイリスたちは?」

「すでに搬送されました。大きなダメージは負ったものの、治癒は可能です。心配なさらずに」

「……そっか。無事なら、よかった」

「アレンちゃん。人の心配ばっかりしないの! 少しは自分を大切にしてよね! もう!」

 エクレールが泣きながら言う。このところ、心配をかけてばかりだなあ。ごめんね、エクレール。

 想うだけで伝わったのか、エクレールは少しだけ頷いて見せた。


 こうして、ルートの町のダンジョンから始まった騒動は収束を迎えた。


 ルートの町に、再び──平穏が訪れるのであった。





・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「アイテムクリエイション。それにあの光の魔法……。まるで【冒険王】のようですね」

 クライムはユーリとセレナに支えられているアレンの後姿を見送る。


「いよいよ完全な覚醒が近づいているようね。こちらに引き込まなくていいの?」

 影が言う。

「“まだ”その時ではありません。もう少し、彼の成長を待ちます」

「……そう」

「ふ。残念そうですね」

「そんなことないわ」


 気持ちが逸るのは彼も同様だった。しかし、焦るな。ここまで計画してきたことに少しの狂い生じてはならない。あと少し。あと少し。



 クライムはいつもの仕草で眼鏡の位置を整え、暗い道を歩き始めた。

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