第136話 それぞれの想い

「よう、ルシード。正気に戻ったか」

「……身体が……動かない」

「そりゃそうだろ、あんだけ無茶すれば」

 ほらよ、といってジャンはルシードに回復薬を手渡した。


「だいたいよ、願いを叶えてくれる、そんな都合のいいアイテムがあるわけねーだろーが」

「……それでも俺は……奇跡を願ったよ」

「おめぇの彼女、幼馴染なんだったっけか」

「ああ」

 幼い頃からずっと一緒だった。二人ならどこへでもいけた。怖いものなどなかった。自分の半身とも言えるような、かけがえのない存在だった。

「おめぇがこんなことしてでも自分を生き返らせようと知ったら、彼女はどんな顔するだろうな」

「……怒ってぶん殴ってくるだろうな」

「だろうよ。まぁ、また道を踏み外そうってんならその時はオレがぶん殴ってやるよ。だからまぁ……今は、好きなだけ泣くといい」

 ルシードは泣いた。二度と還らぬ彼女を想い、泣いた。


 鎮魂歌は流れ続ける。


 すべての悲しみを乗せて、天へと、昇っていった。




 グレイはマガツボシの欠片を手に取った。

 黒いそれはグネグネと動いていたが、見る間に小さくなって今にも消えそうになっていた。

 グレイはためらわず、それを


「ぐ……おぉおおぉおああぁぁぁ!」

 内臓が焼ける痛みに、グレイは悶絶した。倒れ、のたうちまわり、血反吐を吐く。

「ははは、ひゃははは! いてぇ、いてぇ! だが、なじむぞ……。最高の気分だぁ……ひゃははははは!」


 グレイの笑い声がこだまし、そして闇へと溶け込んでいった。




 ブルーとレオンは、セブンからお説教を受けていた。

 リィンとルーシーはアイリスから、四天王の面々はなぜかジャンから、それぞれお説教を受けていた。

「アレンー! セブンがいじめるー!」

 お説教から逃げてきたレオンが、泣きながらアレンの背中に飛び乗った。


「レオン。どうしてあんなに危険な場所に来たんだ。セブンもいじわるで怒っているんじゃない。みんな、心配したんだよ」

「うー……ごめんなさい。でもおれ、おれ、おとなになりたかったんだ。すぐに」

 アレンがレオンの頭をなでる。

「そっか。でも、焦らなくていいんだよ。ゆっくり、色々なことを学んで、大きくなっていこう」

「……おとなになるまで、まっていてくれるのか?」

「? うん、待つよ」

 レオンはにっこりと笑うと、アレンの顔をなめまわした。ついでにエクレールもアレンの顔をなめまわす。

「レオン、くすぐったいよ。エクレールまで……もう」

「アレン、だいすき!」


 大人になるまで待っている。レオンはアレンが、それまで結婚するのを待っていてくれると解釈した。そんなこととはまるで思わず、レオンを優しくなでるアレンだった。


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