第76話 光──アレン──の帰還

 巨獣。

 大いなるケモノ。


「なんという巨大なマナ。あれは山そのものといえるでしょうね」

 ユーリは巨獣から、世界樹のような偉大なマナを感じていた。


 ドラゴンバスターズの飛翔船と戦車が砲撃を行っているのが見える。魔法と併せた集中砲火。それを受けてなお、巨獣は前進している。

「おいおいおいおい……マジに山そのものじゃねーか! 避難しなくていいのかこれ!?」

 セブンはあわあわと狼狽えた。

「すでに避難警報はでている。ドラゴンバスターズがどうにもできないなら、わたしたちも逃げるしかないわ」

 いくらなんでも、山を砕くのは至難の業だ。自分の力がどこまで通用するのか確かめてみたいアイリスであったが、今は皆の避難が優先。そこらへんは弁えている彼女であった。


「そんじゃ、アレン連れて退散すっか。って……いねーじゃん、あいつ」

「──は?」

 ユーリはアレンのマナを探る。

「凄まじい速度で巨獣のところへ……向かってます」

「な……っ!? 何考えてんだあいつは!?」

「意識が朦朧としているのかもしれません。それで、強いマナに惹かれて……」

「──面倒かけてくれる!」

 アイリスが跳んだ。

 これだけ皆に迷惑をかけておきながら、せっかくつないだ命を無駄にするつもりなのだろうか。なんて勝手な人。アイリスは舌打ちをしながら走る。



 近づけば近づくほど、その巨大さに気圧されそうになる。

 レッドドラゴンと同じくらいの大きさだろうか。

 これは簡単には止まらない。止められない。

 この巨獣には悪意はない。ただ、前に歩いているだけ。その進行方向に中央都市があるだけなのだ。

「アレンちゃん、ごめんね……アタシまで変なになっちゃって……」

「エクレールは悪くないよ。僕の心が弱いから……つけこまれたんだ。みんなになんて謝ろう……」

 謝る前に、あの巨獣を止めなければ。


「アレンちゃん、いくらなんでもあのでっかいのを止めるのは無理だよ。それに身体がボロボロだからはやく治療しなきゃ……」

「あれを止めることは僕にはできない。だから……進路を変えるんだ」

「できるの!? そんなことが」

 セレナがアレンに流し込んだ『マナ』が体内で活性化していた。正気に戻った時に、あの巨獣を止めてほしい。そう託されたマナだ。おぼろげながら過去の『記憶』が見えた。今なら、使える。



 ──光の力を。


 アレンは光を、放った。


 

 まばゆい光が、都市全体を包み込む。

 光は収束され、巨獣の頭に向かって一直線に放たれた。

 巨獣の動きが止まった。


 飛翔船に乗るクライムは、閃光が放たれてきた方角を見て、微笑を浮かべた。


 巨獣が鳴いた。


 巨獣からも光が放たれる。

 光は都市に降り注いでいた魔石の結晶をすべて消滅させる。そして傷ついた者たちを癒していった。


 巨獣が逆方向へと向き直り──ゆっくりと、ゆっくりと中央都市から離れていった。



 アイリスは見た。

 光を。


 光を放つ、アレンの姿を。


「──まさか。この光、は」


 と、同じ光。

 忘れるはずもない。忘れることなんてできない。

 この光を、ずっと、探していた。探し求めていた。

 すると彼は、? 覚えていなかっただけ?

 そもそも。こんな力が使えたなら噂になっていたはず。どういうことなのだろう。 アイリスは激しく混乱する。


 聞かなければ。でも、足が動かなかった。

 もし彼が。夢にまでみた憧れの人物であったとして、それを容赦なく殺そうとした、その現実が彼女の足を止めていた。


 倒れるアレンの身体を、彼の仲間たちが支えるのが見えた。



 ──確かめなければ。


 アイリスは自分の鼓動を強く感じた。止まっていた時間が──動きだした。



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