絶対に、負けられない!

「おらあぁぁぁぁっ! おらおらおら!」

 バーバラが無数の拳を繰り出した。一撃一撃が即死級の威力を持っている。

 ゴルドとメイナードは光の魔法でそれを防ぐ。光の速度なら、相手の攻撃への反応が遅れても防御することが可能。しかし、そこから反撃に転じる隙がない。このままではすぐに魔法力が尽きてしまうだろう。

「その程度だか! なら、一瞬で終わらせてやんべ!」

 バーバラが偃月刀を召喚し、右手に持った。渾身の力がこめられる。


「ゴルド! 前だ! 活路は前にある!」

「……わかっているさ!」

 以前なら、威圧されて退いていただろう。だが、今は違う。

 ゴルドは、メイナードはアレンの姿をイメージした。彼ならばきっと、ここで一歩を踏み込むに違いない。

 そして、アオイやユリアに鍛え上げられた、地獄のような日々が彼から恐れを消していた。


 ゴルドは加速し、バーバラの懐に踏み込んだ。

 そこは偃月刀の間合いではない。すでに偃月刀を振りかぶっていたバーバラは、ゴルドに向けて蹴りを放った。

 そこにメイナードが光の魔法を放つ。バーバラの体勢が大きく崩れる。

「うおおおおおぉおおぉおおお!!!」

 ゴルドがバーバラに体当たりし、至近距離で光の斬撃と拳を放つ。不可避の攻撃が、バーバラを打ちつける。

「はああぁぁぁぁっ!」

 メイナードが全魔力を込めて、光の波動を放つ。

 バーバラが、地面に倒れた。


「……や、やったか?」

「……いたたたた。今のはかなり効いただよ」

 血まみれになったバーバラだが、平然と立ち上がった。出血の割には傷が浅いようだ。全力でも、まるで届かないとは。メイナードは愕然とした。

「まだだ! 手を休めるな!」

 ゴルドが果敢に向かっていく。虚を突かれたバーバラだったが、野生動物のような反射神経でカウンターを放つ。ゴルドはその拳を受けたものの、止まらない。わずかに残った魔力を拳に込めて、バーバラを打ちつける。

「くっ……身体に力がはいらないだ!」

「ふ、ふふふ。ぼくの光の魔法には相手を弱体化させる効果もあるのさ……!」

 メイナードはバーバラと殴り合うゴルドの姿を見て、自身の中に残された僅かな魔力とマナをかき集める。

 ゴルドがよろめき、その隙をついて、バーバラが偃月刀を振り下ろそうとする。

 メイナードが叫び声をあげて、バーバラに体当たりをする。

 ゴルドが、メイナードが、バーバラを殴る、殴る、殴る。まるで分厚い壁を殴っているような感覚。拳の皮がめくれ、血が噴き出す。それでも手は止めない。

「うおおおぉぉおおぉおぉおおおっ!」

 こんなところで負けるわけにはいかない。ここで退けば、二度と彼と並べなくなる。

 光を。掴むために、ゴルドは拳を振るう。

 ゴルドは残された最後の魔力を込めて、バーバラの顎を打ちつけた。

 脳が揺さぶられ、バーバラは白目を向いて、仰向けに倒れた。


 それを見届けて、ゴルドとメイナードも地面に倒れた。

 致命的なダメージは与えられていない。それでもしばらくは意識を回復しないだろう。それで十分だった。

「ふふ。アレンくん、ぼくは、やったぞ。後は……任せたからな」

 ゴルドは拳を天に掲げた。

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