決意

「……すまない、ニコル。オレのせいだ」

 脇腹の傷が痛む。手持ちの回復薬では完治しそうにない。

「キースさんのせいじゃないです。ボクが弱いから……」


 いや。これは間違いなくオレのせいだ。

 

 ギルドでクエストを受注したオレたちは、とある山に来ていた。

 山そのものがダンジョンといえるこの場所だが、上の方まで登らなければ大した危険はない。そのはずだった。


 ──迂闊だった。

 昨日、アイテムを換金しているところを、あの痩せ犬……ヨギに見られていたとは。

 

 順調に冒険を進め、アイテムを入手し、モンスターを倒していたオレたちを……ヨギたち冒険者パーティが襲撃してきたのだ。

 逃げずにおとなしくアイテムを渡せばよかったのだ。

 山を逃げたのがすべての間違いだった。不幸以前に、オレは判断を誤ってしまったのだ。


 現れたのは──金色の羽毛を持つ、バカでかい鳥のようなモンスターだった。

 そいつはオレたちを追いかけてきていた冒険者たちをついばみ、あっという間に肉片に変えた。


 オレたちは連中がやられている間に岩陰に隠れることができたが、見つかるのも時間の問題だろう。

 ニコルは声を殺して泣いている。


「ごめんなさい……ボクのせいで……ごめんなさい」

 オレはニコルを守るために傷を負った。死ななかったのはたまたまか。


「……そうだな、オマエのせいだ」

「……」

「オマエのせいで、オレは冒険が楽しいことを思い出しちまったよ」

「……キースさん……?」

「ありがとうな。できるならオマエとこれからも冒険してみたかったが……オレはここまでだ」

 すまない、みんな。許してくれとは言わない。償えないことだけが心残りだ。

 だが、希望は繋げなければならない。新しい冒険者の礎になることができるのであれば、それでいい。


「ニコル。希望を捨てるな。オマエならきっと、大丈夫だ」

「キースさん!?」

「オレがあいつに喰われている間に、オマエは逃げろ」


 オレは岩陰から飛び出した。


「こっちだ、バケモノ! かかってこい!」


 でかい鳥はくるるると鳴いている。そしてひょこひょことこちらに向かってくる。

 せいぜいオレを喰らって腹でも壊せばいい。たぶん、オマエにも不幸が襲いかかるだろう。オレは心の中で、でかい鳥に悪態をついた。


 鳥の顔が近づく。


 その時だった。


「……ニコル……オマエ、何やってるんだ」

 オレの前で。ニコルは両手を広げて、鳥と対峙していた。

 鳥はくちばしをニコルに近づける。すんすんと匂いを嗅いでいるかのようだった。

 ニコルはガタガタと震えている。それでもまっすぐに鳥を見ている。


 鳥は少し頭を下げたあと、ふいっと顔を背けた。そしてそのまま、飛び去っていってしまった。


 ニコルはへなへなとその場に座り込んだ。


「……おなか、いっぱいになっちゃってたのかな……」

「……そうかもな。それともオマエの髪が金色だから、自分の仲間のヒナかなんかと思ったんじゃねーか」

「……そんなわけ……」

「……ぷ、はははっ!」

 オレとニコルは顔を見合わせ、そして笑った。なんだかわからないけれど、笑いが込み上げてきて止まらなかった。

 笑うなんて、どれくらいぶりだろうか。


 こうしてオレたちは無事に下山することができた。とんだ目に遭ったが、こうして生きていられるのは運がいい。


 崩れ去ったはずの予感は、”確信”へと変わる。


 ならば。もう、オレの心は決まっている。



 ──その次の日。


 オレはニコルにある『提案』をした。

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