破魔の槍の記憶

「うおわっ!?」

 巨大なトカゲ人間……リザードマンが目の前に現れてぶつかってきたと思ったら、体をすり抜けていってしまった。

 オークが、ゴブリンが、骸骨が、次々とモンスターたちが走り抜けていく。彼らは何かと戦っているようだった。


「ふぅん。ニンゲン相手にするよりは少しは歯応えあるけれど、こんなものかしらね」

「──カミラ!?」

「ん? 今、誰かあたしのこと呼んだかしら? ヴラド」

 それに対し、彼は何も応えない。この男が……ヴラドか。ジャンはその姿を目に焼きつけた。


 そうか。これは、この槍の記憶か。


 意識が、飛ぶ。ブラドの心臓目がけて、飛ぶ。

 ブラドは平然と、ジャンを、槍を掴んだ。


「破魔の槍。まだこのわたしを狙っていたか。しかし残念だったな。また失敗だ」

 バチバチと電流のような激しい力が流れ込んでくる。

「またしばらく眠っているがいい」

「忌々しい槍ね。どうにかして壊せないのかしら」

「我々には無理だろう。本来は触れることすらできん」

 ブラドの手がじゅうじゅうと音を立てて焦げている。そしてそれは再生することがなかった。


 意識が遠のく。


 景色が変わる。


 誰かの声がする。



「本当に、いいんだな」

「……ああ。その代わり、必ず……魔を滅する武器を……槍を……鍛えてくれよ」

「……わかった」



 景色が変わる。


 老婆が。

 槍で、自分の胸を突き刺した。

 血が溢れ、槍を濡らす。



 また景色が変わる。


「ああああああああっ!」

 雨の中。

 彼女は若い男性を胸に抱いていた。冷たくなる彼を、いつまでも、いつまでも抱きしめ、泣いていた。



 景色が変わる。



 先ほどの女性が……さらに若い姿で、すぐ近くに立っていた。

「……って、ドロップ!? いや……違う?」

 その女性はドロップに似ていた。これは一体……ジャンは戸惑った。


「──困った男だな。ここまで来てしまうなんて」

「……おめぇが、破魔の槍の中の……」

「そう。あたしが、この槍と共に戦い、そして槍と一体化し……破魔となった【破壊者】。超越者を憎む者」

「さっきのは、おめぇの記憶か」

 女性は頷いた。


「あたし自身も忘れているほどの、遠い記憶だ。もう、後戻りはできないぞ。あたし……破魔の槍の力を引き出すということは、あたしの魂と繋がるということだ。失敗すれば、お前は槍に飲み込まれる」

「……覚悟の上で来てるんだよ、こっちは。わかってんだろ?」

 彼女は悲しそうな顔で、少しだけ微笑む。

「そうだな。お前はそういうやつだ。……弱いくせに。これまでの槍の持ち手の中で最も貧弱なくせに……よく……ここまで、戦ってくれたな。ありがとう」

「最期みてぇなこと言うんじゃねーよ。おめぇが力を貸してくれたから、どうにかやってこられたんだ。礼を言うのはオレの方だ。だが……ここで終わりにするつもりはねーぞ。おめぇの力、全部引き出して……やつを……ヴラドを、倒す!」


 それが、オレの、あたしの──悲願だから。


「で。どうやっておめぇの力を引き出せばいいんだ」

「……知らない」

「はぁっ?」

「そもそもここまであたしの魂と同調したのはお前が初めてだ。ここから先は未知の領域。……ぶつかり合ってみるか? うまい具合に融合するかもしれん」

「いやいや、そう単純にいくもんかよ……」

 困ったな、とジャンはため息をついた。

「てい」

「あだっ!? おめぇ、何すんだ!」

 突然の頭突き。一瞬、ジャンの意識に何かが流れ込んできた。

「む。案外いけるかもしれん。いくぞ」

「ちょっ……本気かよ……いてぇぇっ!!!」

 


 火花が、散った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る