第65話 対決! レディ・ノスフェラトゥ

 ──と思ったら、その部屋には誰もいなかった。アレンのマナの残り香的なものを感じるので、ここにいたことは間違いない。

 すでにエクレールたちが救い出したのか?


「しかしあの幽霊女と蝙蝠じーさんの他に誰もいないな」

「うーん……真祖カミラには千の眷属がいたっていう話なんだが」


「──みんなやられてしまったのよ。忌々しき冒険者たちにね」


 いきなり広間に【転移】した。

 そこにいたのは、吸血姫。吸血鬼の真祖。レディ・ノスフェラトゥ──カミラ──なのかあれ?

「ずいぶんちっこくなったなぁ」

「うっさい! 力を使い果たしちゃったのよ! ってなんなの、あんたたち。ガイコツに、人間……なのに、変なにおいするわね」

 幼女カミラは鼻をふんふんと鳴らした。

「ん……そっちのガイコツ、会ったことあるわねたぶん。どこだったかしら……ま、いいわ。それであんたたち、ここに何しに来たのかしら」

「アレンを返しにもらいにきた」

「やだ。ぜったいに返さない」

「いや、そこをなんとか」

「やだ。あの人、あたちのものにする。おいしそうだし」

 こいつもアレンの魅力(ただし人間じゃないやつ限定)の虜になったか。スーパーめんどくさいことになってきた。


「アレンちゃんは! 渡さない!」

 エクレールが雷と共にやってきた。

「がう! アレンをいじめるやつ! かじる!」

 なんか毛がちりちりになったレオンも来た。何があった……。

 そして爆音。炎の中で、ゆらりと──セレナが弓矢を構えた。こわい。

「わが友アレンを……返してもらおう」

 あれ、ブルーどこいった? と思ったら、セレナの持っている矢に変化していた。変幻自在だなぁ。


「なんなのよあんたたち! なんかむかつく! って、あの人アレンっていうのね。決めた! あんたたちの目の前で、あの人の血を吸って、あたちの眷属にしてやる!」


「「「そんなことさせない!」」」

 三人が同時に言う。こうしてアレン争奪戦がその火ぶたを切ったのだった!



「アレンって、あのおっさん冒険者だろ? ずいぶんと好かれてるんだな」

「ああ。ほぼ人間以外にな。あと、マナの内包量が多いヤツにも好かれる傾向にある。性別問わず」

 はっ。呆気に取られている場合じゃない。

 アレンはどこにいるんだ? この間に助けなければ。

 と思ったのだが、エクレールたちの勢いが圧倒的で、勝敗はすでに決しそうだ。


「もう! 全然力が出ない! こうなったら──来なさい、すーぱーぞんびさん!」

 スーパーゾンビさん? なんだそのネーミングセンスの欠片もない……フィーナみてーだな。


 床がめりめりと音を立て、そしてひび割れた。むきむきの腕がにょきっと生えてきたかと思うと、不気味な何かがずりずりと這い出してきた。

 なんというか、不格好なでかぶつだった。腕や足の大きさがそれぞれ違うし、顔や全身がつぎはぎだけ。無理やり身体のパーツをつなぎ合わせているような感じだ。フィーナが作り上げた、あの悲しき魔導人形ゴーレムを彷彿とさせる。


 ゾンビ、というよりかこりゃあ──人造人間だな。

 おれはそいつがもぞもぞと動いている間に斬りつけてみた。破損した肉片を補うように、どこからか肉片がとんできてくっつく。気持ちわるっ。


「この城に眠る屍肉がある限り、そいつはいくらでも再生するわ! うふふふ!」

 スーパーゾンビさんとやらは、じいさんみたいな顔なのに、子供のようなつぶらな瞳でおれを見ている。怖いな。


「セブン。おれがカミラをやる。あんたらはあの気味の悪いデカブツを頼む」

「あん?」

「オレのこの槍は、吸血鬼さえもぶちのめす破魔の力がある。真祖を討ち滅ぼす絶好の機会を逃したくない」

 それは全然かまわないのだけれど、あっちの三人娘(とブルー)をどう誘導したものか。


「おい、そっちの娘さんたち! このデカブツがアレンを隠しているらしいぞ! はやくやっつけてくれ!」

 困った時はアレンをダシにつかうといいことを、おれはよく知っている。

 三人は同時にこっちを向く。こっちも怖いな。


「アレンを返してー!」

 エクレールが電撃を放つ。効果はない。

 ってかおまえらなら、アレンの正確な位置わかるんじゃねーのか? 頭に血が上ってだめだなこいつら。


「ジャンさんよ、おれもカミラとやる。この魔剣とやらなら通用するかもしれねー」

「魔剣? ああ、槍が反応しているな……ま、いいだろ。あんたなら簡単に死なねえだろうしな」

 弱っているとはいえ、吸血鬼は吸血鬼。手ごわい相手には違いない。


「はぁ……はぁ……このっ……こいつら……こうなれば、奥の手……よ」

 カミラはビンを取り出し、中に入ってた赤い液体を飲み干した。

 途端に、すさまじい魔力が迸る。


「少しだけど、あたしの血を保存しておいてよかったわ。半分の力ってところだけど、あんたたち相手には十分ね。死になさい」


 ──速い!


 カミラの姿が消えたと思うと、ジャンを蹴り上げていた。

 ジャンの身体がずたずたになって、床に落ちた。


「次はあんた」


 殴られたおれは全身ばらばらとなり、そして、意識を……失った。



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