第41話 訓練所にて
僕は目を疑った。
訓練所。ここはドラゴンバスターズの団員たちが実戦形式で鍛錬をする場所……らしいのだけれど……これはもはや殺し合いだ。
「ギリギリのところまで追い込まないと、ドラゴンとは戦えないからね」
戸惑う僕を見て、シータさんが言った。
血しぶきが飛び散る。皮が切り裂かれ、骨が露出している。それでも、彼らは戦いをやめない。
大剣が、相手の男性の腕を斬り飛ばした。
「そこまで! 治療を!」
すぐさま魔法使いが駆けつけ、腕を『くっつける』。
「神経がつながるまで休憩! 次っ!」
今度は魔法の応酬。爆炎が迸り、風の刃が飛ぶ。
「あ。ごめんね、アレンさん。びっくりしたよね。もちろん、アレンさんはやらなくていいから──」
「おう、新入り! ちょうどいいところに! おまえさんの力、もっとよく見せてくれ」
僕は戦士風の男の人の丸太のような腕に絞められて、訓練所の中央に放り出されてしまった。
「アレンさん! あんたたち、やめさせなさい!」
シータさんの声はわーわーという喧騒にかき消されていた。
凄惨な光景を見たばかりのに、どうしてだろう。気持ちが昂っている。
──試したい。僕は、僕の力を試してみたい。
僕の前にやってきたのは、騎士のような鎧を着た青年だった。武器は、大剣。
「リックと申します。よろしくお願いします」
「は、はい。お願いします」
リックさんは礼儀正しく頭を下げた。好青年だなぁ。
──頭を上げた瞬間。まるで別人のような、荒々しい殺気が放たれた。
「ぜあぁぁぁぁっ!」
一撃必殺。渾身の突きが飛んできた。
僕はそれをぎりぎりで回避する。回避したつもりが、少し腕にかすってしまった。
「今の一撃をかわすとは。やりますね」
もちろん、自力では回避できなかった。あらかじめ、例の雷の魔法で反射神経を上げていたからできた芸当だ。
相手はドラゴンバスターズの『勇士』だ。一瞬も気を抜くわけにはいかない。
リックさんは剣を構えた。その姿がセブンと重なる。
「きええぇぇっ!」
まるで竜巻。しかし、魔法のおかげで見える。これがなければ、成す術なく首をはねられていただろう。
──いや、待て。この緩急のつけ方は……僕を誘い込んでいるのか。
誘いに乗るとみせかけて。僕は一歩踏み込んだ後、止まった。
「くっ! フェイント!?」
リックさんは止まれない。剣は僕の前で空を斬る。
僕は一気に、雷の力を放った。
「ぐぅ……おぉぉぉ!」
リックさんは止まらない。
加減は失礼に当たる。しかし、僕は躊躇してしまった。魔法を人間に向けて放つことを。
「アレンさん! 治療できるから、遠慮しないで!」
リックさんの剣が迫る。確実に、殺しにきている。やらなければやられる。僕は反射的に力を放ってしまった。
リックさんは弾き飛び、ぐったりとして動かなくなった。
「治療! 急げ!」
魔法使いがリックさんに【ヒール】をかける。傷はすぐに癒えていくけれど……大丈夫だろうか。
息が苦しい。手が震えている。
「……参りました。40歳初級冒険者……【高齢のルーキー】だなんて、とんでもありませんね。正直なめてました、すみません」
リックさんが何事もなかったように立ち上がり、僕と握手を交わした。
「我々の相手はドラゴン。一瞬の躊躇が命取りになります。次は、本当にぼくを殺すつもりできてください」
「あ……ごめん。決して手を抜いたつもりでは……」
「もちろん、わかっています。ぼくたちのこんなやり方が異常なだけなんです。しかし、こうまでしなければ生き抜けない世界ということを知っておいてください」
「……はい。ありがとうございました」
リックさんは悔しそうな表情をした後で、笑って見せた。笑顔がとてもさわやかだ。
「──ぬるいな、下等種族」
「……無礼だぞ、セレナ殿」
あの美しいエルフの女性が、いつの間にかそこにいた。
「次はわたしが相手になろう。身の程を知るといい」
「だめ! やめなさい、セレナ!」
「気安くわたしの名を呼ぶな、下等種ども」
セレナ、と呼ばれたエルフの女性は、シータさんにも冷たい視線を向ける。仲間じゃ……ないのか?
「逃げてもいいのだぞ、負け犬。それが貴様にはふさわしい」
セレナさんが弓矢を構える。いや、引いているのは矢ではなく、ショートソードのような刃物だった。
「アレンさん、挑発に乗らないで。エレナは第一…特攻部隊の隊長。ドラゴンバスターズの中でも最強の【シューター】よ」
シータさんの言うように、退くのが正解かもしれない。それでも僕は、前に出た。そうしなければならないと思ったからだ。今、僕はドラゴンバスターズの一員。引くわけにはいかない!
「ふん。雑魚なりに意地を見せるか。いいだろう。いくぞ」
ソードが飛ぶ。
はやい。それでも反応できない速度ではない。
「アレンちゃん! 追尾弾よ!」
エクレールの声に、僕は反応する。かわした直後、ソードは軌道を変えて加速した。僕も反応速度を『加速』させて対処する。しかし。
「あぐっ!」
ソードが僕の左腕に刺さる。
激痛に頭が痺れる。回避したはずなのに、どうして。
「次は右足」
「あ……がっ」
ソードがいつの間にか、僕の右足に突き刺さっている。反応が加速している分なのか、痛みが激しい。呼吸が、できなくなる。
駄目だ。止まるな。せめて、一矢報いなければ。
僕は加速する。雷そのものをイメージして、突撃する。
「……ちぃ」
ずぶり。
僕の腹部を、ソードが、貫いた。
「アレンさん!」
「アレンちゃん! しっかりしてー!!」
視界が──暗く──
……。
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