第6話 北の大ギルド、崩壊

「北の大ギルドの冒険者たち全員が……南の大ギルドに買収されたって!?」

「えげつないことするな【女帝】は」

「それでギルドマスター同士がもめているらしい」

 ざわつきは都市中に一気に広まる。一体、何が起こっているのだろう。


「アレンちゃん。北の大ギルドに向かうわ。ついてきて!」

「エクレール!? 待って!」

「なんかオモシロそーなことになってんな。おれもついていくわ」

 エクレールがひゅんと飛んでいってしまったので、僕たちは走って追いかけていく。


 だんだんと人混みが激しくなっていく。

「いたたっ!?」

「なんだ、なんか飛んでったぞ」

 エクレールがびりびりと小さな雷を発して、人混みをかき分けていく。僕たちはその隙間を縫うようにして進んだ。



「やり方が汚いのじゃ! ひどいのじゃ! あんまりなのじゃ!」

 老人のような言葉づかいで、小さな女の子が誰かに怒っている。

「ほーっほほほっ! よっっ……ぽど冒険者たちに信頼されてなかったのですわね、あなた。こんなにも簡単にコトがすんなりと運ぶなんて!」

「ぐぬぬぬ」

 なんか貴族っぽい派手なドレスを着た女性が、小さな女の子を見下ろしている。羽根のついた扇子であおぐその顔はにやついていた。


「そもそもこの中央都市にギルドは一つで十分なのですわ。わたくしはこの中央都市すべてのギルドを統一し、そこの長になってみせますわ……それもそう遠くないうちに!」

 女性が高笑いする。貴族のお嬢様……にしては、これはちょっと本人の前では言えないけれど、年増っぽい。


「こらー! フレーシア! ソフィちゃんをいじめるなー!」

 エクレールが飛び出した。

「あら、【白銀の闘鬼】の精霊ちゃんじゃない。あなたは黙っていらして」

「きゃう!」

 バチン、とエクレールの身体が輪っかのようなもので拘束される。

「うぅうー! アイリスーっ! 助けて―っ!」


 エクレールが叫んだ。


 ──瞬間。


 地面が揺れた。

 爆音とともに、それは落ちてきた。雷が落ちてきたのかと思った。

「……貴女。エクレールに何をしているの。いくら大ギルドのマスターでも容赦しないわよ」

 アイリスがハンマーをフレーシアという女のひとに突きつける。

 同時に、いつの間にか現れた黒衣の男たちが、アイリスを取り囲み、剣の先を向けていた。

「おやめなさい。ごめんなさいね【白銀の闘鬼】。でも、ちょうどいいところに来てくれましたわね。あなたもわたくしのギルドに移籍しなさい。悪いようにはしなくてよ?」

「……なんの話?」

「あなた、しばらくここを留守にしていたんでしたわね。この北の大ギルドの冒険者たちはすべて、わたくしのギルドへ移籍したのですわ。あとはあなただけ。たぶん」

「……え? なにそれ。なんでそんなことになってるの?」

「あなたのパーティもみんなわたくしのギルドに来てくれましたわよ。それに、今はちょっと遠征にでてしまいましたけど、『光』の力を使う冒険者も……」

「いいわ。移籍する」

「あ、アイリス~! そんにゃ~! あんまりじゃあぁぁ~」

 女の子がアイリスに縋りつくも、ぺっと払われてしまった。その様子を、フレーシアさんはにたにたと笑ってみてる。


「ちょっとアイリス!? ソフィちゃんに助けてもらった恩を忘れたの!?」

 エクレールがアイリスに向かって言う。

「恩はもう十分に返したものと思ってるわ。それがなければ、とっくに他のギルドに移籍してた。ぬるすぎる環境は腕をなまらせる」

「……アイリスのバカー! 契約解消よ!」

「……勝手にしなさい。せいぜい、アレンに面倒見てもらうことね」

「ほーっほっほっほ! 無様ね、ソフィ。女神という素晴らしい地位を捨てて人間に転生なんてしなければ、こんなみじめな想いしなくてすんだのですわ。ばかなひと。さぁ、白銀の──いえ、アイリス。新しいギルドをわたくしが直々に案内してさしあげます。あなたにはとても期待していましてよ」

「任せて」

「頼もしいわね! ほーっほっほっほ!」

 アイリスは、高笑いのフレーシアさんの後に続いて歩きだした。黒衣の男たちの姿も、いつの間にか消えている。


 後に残ったやじ馬たちもざわめきながら、ひとり、ひとりと帰っていく。

「こうなるとちょっとかわいそうだな」

「オレはいつかこうなると思ってたよ」

「おれ、今年冒険者になるんだけど、北の大ギルドだけは絶対に入らないぜ」

「おれもおれも」


 そして僕とセブンとエクレールと、泣いている女の子だけがその場に残るのであった。

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