第68話 幻夢

 あれ?


 みんな、どこ行った。

 いつの間に、おれ一人になった。


「よう、〇〇〇〇〇。こんなところにいたのか」

「あ? ああ。なんか夢見てたんかな、おれ」

 ふいに右腕を見る。そこには『9』の文字があった。あれ? 6になったんじゃなかったっけ。あ、そうか、6と9を見間違えた? いや、7の次は9とはかんがえねーな。


「あと、9か」

「──そう、だ。あと9人だ。先は長そうだなあ」

「お前の気が済まないだろうが……気長に待っていれば全員死ぬんじゃないのか。寿命で」

「死ぬだろうけれども、たぶんずっと先の話だぜそれ」


 あと、9人。

 そうだ。おれは探している。

 おれを……こんな風にしやがった連中を、探しているんだ。


「しかし……負けたな」

「ああ、負けた」

 冒険者たちに戦況をひっくり返された。魔法だのスキルだの、反則だろ。

「で、これからどうすんだ」

「運良く生きながらえてしまったが、このまま生き延びるつもりはない」

「どうしてだよ」

「私が”残り9人のうちの1人”だからだ」

「──は?」

 意味が、意味がわからない。

 だっておまえは、おれをその術でよみがえらせてくれたじゃないか。共に戦った相棒じゃないか。


「すまない、〇〇〇〇〇。私は、私たちは……自分たちの欲望のために、お前を……。しかし、それは間違っていた」

 その左腕を掲げて見せる。腕は変異していた。まるで樹の枝のように、細く。そして黒く。


「言い訳にすぎないが……連中はお前の力を手に入れれば、娘を死者ではなく生者としてよみがえらせられるようになるだろうと……だが、娘はよみがえらなかったよ」

 彼が指さす方を見る。虚ろな目をした少女が、取れた自分の腕をかじっている。

「ネクロマンサーとしての力が増幅しただけだった。後悔した私は、お前を掘り起こし……。ここまで言えなくて、本当にすまない。お前と過ごした時間は……私にとってかけがえのない時間だった。楽しかったぞ。さぁ、その剣で終わらせてくれ」

 今更。

 どうして今更。そんなことを言うんだ。

 共に肩を並べ、苦楽を過ごしてきた相棒がおれの復讐相手のひとりだなんて。


「ずいぶん勝手じゃねーか。死んで、はい、さようならってか。そうはいかねーぞ」

「……」

「おれをずいぶんと見くびってくれるじゃねーかよ。ここまでずっと一緒にやってきたってのによ。ここまできたら一蓮托生。今度はおれにつきあってもらうぜ。最後までな」

「〇〇〇〇〇……」


 すげーお人よしだからな、こいつ。弱みにつけこまれて、いいように利用されただけなんだろうな。それでもおれを文字通り八つ裂き……いや、それ以上か。とにかくバラバラにしたことは許しが……こいつがいたから……そう、おれも楽しかったんだ。おれが望んでいた、友。こんな形で得ることができるなんてな。



「……」

「どうした? 何をみている」

「……〇〇〇〇〇、にげ……」



 ごろり。


 おれの


 足元に。


 ──の、頭が、ころがっ





「骨。どうしたの、骨?」

 すぐそこに、幼女カミラの顔があった。

「……いや、なんでもねー。それより落ち着いたのかおまえ」

「あ、あたちを誰だと思ってんの! あたちは吸血姫。最強の吸血鬼なのよ! あんな人間に心を奪われたりしないんだからね!」

 いやいやいや、抗えてない抗えてない。めっちゃアレンのにおいかいでるじゃんよ。

「そういえば骨。あたち、あんたのこと色々と思い出したんだけど」

「……おれも色々と思い出した。だが、今は黙っておいてくれ」

「よくわかんないけど、いいわ。それよりもあのアレンさまなんだけど、ちょっとどうにかした方がいいわね。強烈すぎる。そのうち大変なことになるわよ」

 いや、すでに大変なことになっていると思うのだが。

 確かに、出会った時よりも、そのマナは色濃く、人ならざるものを惹きつけやすくなっているようだ。大事になる前に、抑える何かが必要だろう。


 気は進まないが、フィーナに相談してみっか。──聞きたいことも、できたしな。


「みんな、助けに来てくれてありがとうね」

 アレンがほほ笑むと、三人娘は頬を赤らめた。ついでにカミラもうっとりしている。セレナの武器に化けていたブルーもぐにゃぐにゃになっている。おれですらクラっと来てしまいそうだ。


 アレンのこのフェロモンと言うかなんというか、この魅惑の力が後に大きな波乱を巻き起こすことになるのは──そう遠くない未来の話だった。

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