第115話 地獄絵図

「う、うわああぁぁぁ! なんだあいつら!」

「ば、バケモノだ! に、にげろ!」

「だ、だめだ! 退路がふさがれてる!」

「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁあぁ!」


 阿鼻叫喚。


 鬼たちは絶望した。


 鬼だ。鬼がいる。いや、鬼は自分たちなのだけれども、あいつらは本当の鬼だ。

 

 この鬼族たちは決して弱くない。今、蹴散らされている一千の鬼たちは精鋭部隊である。

 人間たちの技を盗み、強力な武具を鍛え上げ、長い時をかけて準備してきた。それが水泡に帰していく。

 


 炎の中。揺らめく影。


 ──来た。


 地震。いや。それは衝撃波。

 アイリスがハンマーを振り回しながら氷の魔法を放つ。力を放つのに一切の躊躇はない。

 白銀の闘鬼。まさに、鬼、である。


「新兵器! 魔導機関銃! だだだだだだだ!」

 シータが魔法弾が込められているという兵器で乱射する。乱射する。乱射する。

 鬼たちは逃げ惑うことしかできない。

 後にこれがジパングで永く伝わる豆まきの文化、その元と言われる【魔滅】の儀式となる。


「レオンちゃん! 新技、新技! いっくよー」

「がうう!」

 エクレールの雷を纏ったレオンが、鬼たちの間を駆け巡る。

 黒雷。

 鬼たちは反応することができずに、次々と倒れていく。


「鬼。駆逐する。そして、アレンと、温泉」

 セレナがぶつぶつと極大魔法を放つ。土の巨人が、鬼たちを踏み潰す。

 ユーリもまた、極大魔法級を連発している。リィン、ルーシー、カミラ、バーバラが、次々と鬼を弾き飛ばしていく。

 


「……拙者の出番、なさそうでござるな……」

 アオイがそう感じるほど、圧倒的だった。

 彼女たちの戦いには鬼気迫るものがあった。一体、これはどういうことだろうか。



 ──その理由はとても単純なものであった。


 『鬼との戦いで一番活躍した者が、アレンとの混浴の時間をGET!』という密約が、彼女たちの間で交わされたのである。


 もちろん、アレン本人はそんなことを露知らず。


 ちなみにアレンと引き離せないエクレールは対象外となっているものの、彼の貞操の危機を感じるこの雷の精霊は、精神年齢が幼く比較的安全と思われるレオンに協力し、活躍させようとしていた。

 この中で唯一、アレンとの混浴に興味を示さなかったユーリも、エクレールにうまく丸め込まれ(本で釣られ)、鬼たちを蹴散らしつつひそかにレオンを魔法で強化していた。


 ルーシーもアレンには興味がないと思われていたが、どういうわけか張り切っていた。彼女はマナを制御したりする術を身に着けており、アレンが放つ媚薬のようなマナを遮断している。しかし、常日頃からリィンにアレンの話を聞かされ、さらにはあの高貴なるハイエルフのセレナがアレンを好いているという事実が、彼女を少しずつ変な風に洗脳していった。

 結果『アレンはこれまで見てきた中で一番素敵な男性』という錯覚を抱き、かつハーフエルフと言うだけで敬遠されてきた出会いのない自分に優しく接してくれるアレンに恋心を抱いてしまったのである。

 そうと決まれば悩むのは時間の無駄。距離を詰めて、アレンの心をGETするまでだ。ハイエルフでさえ成し得なかったことを自分が成し遂げる。がっくりするであろうセレナの姿を想像しただけで、ルーシーはにやにやが止まらないのであった。


 人知れずやばいモノたちが覚醒してしまっていることを想像もしないアレンは『みんなすごいなぁ』という素っ頓狂なつぶやきを口にしていた。

 しかし、このまま活躍しないというわけにはいかない。今ここでは燃やさなくてもいい使命感を燃やしたアレンは、以前よりも数段威力が上がっている雷の魔法を放った。

 加えて。ここユガワラに眠る『かみなり様』という、雷の大精霊のマナと共鳴。さらに倍増した凄まじい雷を放ち、鬼を打ち倒していった。

 強烈なマナにさらされ、女性陣のハートにさらなる火がついた。



 こうして鬼族たちは手も足も出ず、逃げることもできずに全滅するのであった。


 後に、その鬼の部隊を率いていたボスは、一言だけこう残した。


「……オレはもう、戦わん……」




 結局これって、誰が一番なわけ?

 ……みんなだいたいおんなじくらい倒してたね。

 アレンさまが一番に決まってるじゃないの!

 うーん。まだ次の機会があるはず。そこで勝敗を決めよ。



 今回の勝負? は引き分けとなり、ひとまずアレンは救われたのだった。

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