レイヴン、落つ
想いと想いがぶつかり合い、閃光が弾ける。
それをマルグリットは黙って見つめていた。ぶつかり合う彼らを、羨ましく感じながら。
すべてをぶつけても、全力で受け止めてくれる人たちがいる。以前なら考えられなかったことだ。これもまた、絆、なのか。
何が正しいのか、悪いのか。たぶん、答えなんてないのだろう。
レイヴンは、この時を待っていたのかもしれない。ずっと昔から、自分の信念を貫き、孤独な戦いをしてきた彼は、ここにきて初めて……仲間と呼べる存在たちに出会った。それはきっと、彼が心のどこかで求めてきたもの。
だからあんなに困った顔をして笑っているのだろう。
レイヴンの力は圧倒的だった。魔石から放たれる力を流用し、繰り出す。これはまるでドラゴンのようだと、オーランドは思った。
しかし。ソフィの『歌』がレイヴンの力を封じた。
ドラゴンバスターズを突破した魔獣たちが押し寄せてくる。それを、ゴッツ、オーランドとユリアの規格外の力が屠った。
ルシードの放つ雷がレイヴンの黒い翼を貫く。冒険者たちの放つ炎が、氷が、その身体を打ちつける。レイヴンは何度も何度も再生し、立ち上がり、なおも彼は戦う。
漆黒の風が、冒険者たちを襲う。だが、彼らに恐れるものはない。レイヴンのあらゆる攻撃にもひるまずに、勇猛果敢に立ち向かう。
──これが。未来を信じ、前に進む者たちの力か。
そして、すべての力を出し尽くしたレイヴンは、地面へと落ちた。
「──不思議な……気分ですね。これでもないくらいに完璧に負けたというのに、晴れやかな気分です」
周囲の魔獣たちもすべて霧散した。
すべてを出し切り、黒い翼もなくなってしまった。もう、何も残っていない。空っぽだ。
「しかし……私がここで敗れるのは、想定内。足止めできれば、それでよしです」
そう、これは時間稼ぎに過ぎない。この間にも、魔王は更に力を増しているはずだった。
「おぬし。計画が失敗することを期待していそうな顔をしておるな」
「まさか」
「アレンが魔王とやらを止めることを期待しておるのじゃろ」
「……ふ。半々、ですかね」
彼が止められるのであれば、それもまたよし。自分たちでは見いだせなかった未来を見ている、まばゆい光を持つ者に世界を託せるのであれば。しかし、そう簡単にはいかないだろう。
「今から急げば、アレンさんを助けられるかもしれませんよ?」
「ふん。おぬしのこの結界……これは簡単には突破できそうにないのぅ。ならば、わしらはアレンたちを信じて待つだけじゃ」
信じて待つ、か。どれだけ長い時を待って過ごしてきたことか。
「何を笑っておる」
「いえ、ね。本当に長い時間をかけて準備してきたのですよ? それなのにこんなにも容易く状況をひっくり返されるとは……悔しくて」
「悔しそうには見えんがの」
憑き物が落ちたような顔をしおって。ソフィは笑った。
マルグリットはその様子を見届けた後、その場から静かに姿を消した。
最後まで、見届けなくては。どのような結末であっても、それを受け入れる。
できるならば。新たな世界で、今度は“人間”として生きていきたい。そして、いつかまたアレンと会えて、受け入れてもらえるのなら。本当の名前を告げよう。
彼女は最後の場所へと、跳んだ。
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