キースとニコル

「ねえ、キースさん。奥さん……カタリーナさんは、どんな女性ひとだったんですか?」

「ん。どうしたいきなり」

 キースは戸惑い、ニコルを見る。

「ご、ごめんなさい、突然」

「まぁ……あんなことがありゃ気になるだろうな。そうだな……あんなに嫉妬深いというか独占欲が強いというか……考えもしなかったが……美しい長い髪の、綺麗な女性ひとだったよ」


 キースは思い出を、ぽつり、ぽつりと語り出す。


 以前ならこうして思い返すこともなかっただろうな、とキースは思う。


 そして。子を死産し、辛い想いをしていたカタリーナを、どうしてもっと支えてやらなかったんだろうと、キースは後悔する。自分が至らなかったせいで、あそこまでカタリーナを追い込んだのだと思うと、やりきれない。

 もしかしたら。もっと自分がちゃんと向き合っていれば。ありえないことかもしれないけれど、彼女が病に倒れることがなかったかもしれない。


 どんなに悔やんでも、彼女はもう、いない。

 振り返らずに前を向くしかない。わかっているけれど、なかなか割り切れないものだな、とキースは苦々しい顔をする。


 やがて言葉をなくしたキースの手を、ニコルが握りしめる。

「カタリーナさんの代わりにはなれないけれど……ボクが一緒にいます。ずっと、一緒にいます。だから……そんなに悲しい顔をしないでください」

 子供が生きて産まれていたら、ニコルのような子に育っていただろうか。そんなことを考えても仕方のないことだ。それでも、想像してしまう。自分と、カタリーナと、子供との生活を。淡く、儚い、夢だ。


 キースはニコルの頭を撫でた。

「ありがとな、ニコル」

 新たな夢に、生きよう。

 ニコル、そしてあの仲間たちとなら新しい夢が描けるはずだ。

 キースは笑った。




 ──彼の笑顔を見て。ニコルは胸を高鳴らせてしまうのであった。


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