親友だと思っていたクラスの王子様が実は女の子だった
ゆで魂
第一章 一学期(前)
第1話
自分が欲しいと感じた物は、他人も狙っていると、
「ラッキー。まだサーモンマヨが残っている」
白い手が伸びてきて、一個だけ残っていたサーモンマヨ味のおにぎりを商品棚から奪っていった。
「もしかして食べたかった?」
小首を傾げているのは親友の
アイドルみたいな名前をした、アイドルみたいなイケメンである。
「いや、別に……」
これで悩む必要がなくなったと感謝しながら、からあげマヨ味のおにぎりに手を伸ばしかける。
「ラッキー! まだからあげマヨが残っている!」
テンション高めの女子生徒にラスト一個を奪われてしまった。
「もしかして宗像くん、食べたかった?」
クリクリした瞳の持ち主は
クラスのムードメーカーみたいな存在であり、男子からも女子からも人望が厚い。
「いや、別に……」
淡いため息を漏らしたリョウは、梅おにぎりを手にとって購買部のレジに並ぶ。
「宗像くんと不破くんって、いつも一緒だよね」
アンナが
「そう見えるか」
「女子も噂しているよ。美女と野獣ならぬ、王子と野獣カップルだね、みたいな」
「いやいや、男同士なのにカップルは変だろう。アキラも何かいってやれ」
リョウが水を向けると、なぜかアキラは表情を引きつらせる。
「えっ、リョウくん、野獣だったんだ。僕のことをそんな目で見ていたんだ」
「俺にアブノーマルな趣味はない。普通の女の子に興味がある」
たとえば真横にいるアンナとか。
でもリョウは知っている。
一般的な女子からすると、リョウのように迫力がある男子より、アキラみたいな
防犯グッズ代わりに彼氏が欲しいというのなら、リョウにも一票入るかもしれないが……。
「宗像くんも不破くんも分校だっけ? 他県から転入してきたんだよね」
「そうそう」
一年生の夏休み明け。
微妙な時期にやってきたリョウとアキラは、新天地でゼロから人間関係を構築する必要があった。
似たような境遇の者同士、利害が一致したこともあり、自然と仲良くなったのである。
あれから八ヶ月くらい経つ。
細かい話をし出すとキリがないが、現在も良好な関係は続いている。
「ここは全国に兄弟校があるから、グループ内の学園なら誰でも簡単に転入できるんだよ。それが目当てでうちの系列に子どもを入れる親もいるんだってさ」
「へぇ〜」
アキラの丁寧な説明をアンナは熱心に聞いている。
「あっ! 王子様発見〜! 今日も髪の毛がサラサラだ〜!」
リア充っぽい女子がやってきてアキラの髪に指を通した。
アンナの友人の
アキラのことを王子様呼ばわりした元祖でもある。
「何を食べたらこんな美髪になるのかね? 二週間に一回、美容院へ通っているとか?」
「神楽坂さん、前にも言ったけれども特に心がけていることはないよ」
「うわぁ、出ました、モデルさんみたいな発言。美容のコツといわれましてもぉ〜、基礎的なことしかしてませ〜ん、みたいなやつ」
キョウカの
「やめなって、キョウカ。ごめんね、不破くん」
「別にいいよ。クラスメイトだし。触られても減るものじゃないし」
「えっ、本当? じゃあ、私も触っていい?」
「少しくらいなら……」
許しをもらったアンナの目がキラキラと輝く。
「すごい、すごい! シャンプーのCMに出てくる人みたい! シルクみたいな心地だから、何時間だって触っていられるよ!」
「でしょでしょ。現実で悲しいことがあったら、王子様に
両サイドを女子に挟まれたアキラは、愛玩犬みたいな状態になっている。
「なあ、アキラ、俺も触っていいか」
「ホモ疑惑が浮上するからリョウくんはダメ」
じいっと半眼で拒否された。
「宗像くんの髪は剛毛って感じだよね。毛根が強そう」
「きゃはは〜。でも毛の量が多いから40歳過ぎたあたりから有利になるよ」
そしてこの追打ち。
イケメンの近くにいると微妙に損するらしい。
「リョウくん、ほら、レジが空いたよ」
「おう、すまん」
売店を出るとき、不破くんってそこらへんのアイドルより美人だよね、という声をリョウは背中で聞いた。
「良かったな。クラスで一番か、下手したら学年で一番の美人だな」
「う……うるさい……」
アキラが王子様フェイスを赤らめて反抗する。
けれども、美人度を増すだけの効果しかなかった。
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