第74話

「前の高校を出た理由って、アキラをめぐって乱闘騒ぎが起きたとか?」

「ぶっぶ〜。全然違いま〜す」


 なんだろう。

 かわいさがあだになったんだよな。


「この手のクイズはね、きっと、深く考えれば深く考えるほど、真実から遠ざかっていくタイプだよ」


 アキラがおはしをくるくる回しながらいう。

 う〜む、正解したい。


 焼肉を食べたあと、みんなでテレビゲームをやった。

 4人で同時に対戦できるやつ。


 リョウ、アキラ、トオルの実力は伯仲はくちゅうといった具合。

 ヘボすぎて、笑ったり笑われたり。


 一番上手かったのは不破ママ。

 アキラが学校にいっているあいだ、こっそり鍛えているらしい。


「よし、今回は俺が1位だな」


 トオルが上機嫌にいう。


 不破ママはさりげなく負けて、3人を平等に勝たせてくれた。

 お茶目な人だけれども、気配りの名人でもある。


 パーティーの締めはバースデーケーキだ。


 たくさんのフルーツが盛られたショートケーキ。

 Happy Birthday のチョコプレートつき。


 市販かな?

 と思いきや、アキラと不破ママの手づくりだった。


 アキラが指揮者みたいに指を振りながら、


 はっぴば〜すでぃ〜♪

 トオルく〜ん♪


 と生歌をプレゼントする。


 ローソクの火を消して、ケーキをカット。

 リョウは大きめの一切れをもらった。


「おいしい?」


 アキラが尋ねてくる。


「うん、とてもおいしい」


 リョウは唇にホイップをつけながらいう。


「本当? またケーキを焼いちゃおうかしら」


 不破ママはそういって白い封筒を取り出した。


「ママからトオルくんへ、これを進呈します」


 中から出てきたのは、バースデーカードと、遊園地のペアチケットだった。


「トオルくん、忙しいから、思いっきり遊ぶことなんてまれでしょう。今度、ママが相手してあげるわ」

「おい、母さんがテーマパークで遊びたいだけだろう」

「うふふ」


 母と息子でデートか。

 とことん若いな。


「チケットはフミちゃんのお母さんがくれたの。アッちゃんをお見合いに貸してあげたお礼なのよ」

「なんだよ。親戚からのもらい物かよ」

「うりうり〜! ママを好きなだけ独り占めできるのよ〜! 喜びなさ〜い!」

「あのな……成人した息子の頭をナデナデすんなって」


 トオルはやれやれ顔に。


「ペアチケットはもう一枚あります」


 アキラがリョウに見せつけてくる。

 この流れは、もしや……。


「リョウくん、一緒にいこ」

「いいのか? 入園チケット、本当なら高いだろう」

「僕がリョウくんとお出かけしたいのです」

「それなら、いくか。素直に嬉しい」


 出かける日にちと待ち合わせ時間を決めた。

 トオルが車を出してくれるので、リョウも同乗させてもらうことに。


 そして夏休みの最終日。


「じゃじゃ〜ん! 夢の国に到着です!」


 童話をモチーフにしたお城をバックに、アキラがバンザイのポーズをする。


「アキラは何回か来たことあるの?」

「そうだよ。リョウくんは今回が初めて?」

「たぶん、5歳か6歳のときに一回来たはずだが……」


 レストランを少し覚えている。

 お子様ランチみたいな料理が出てきた。


 あと、人が多くて、夕立が降ったとき、みんながキャーキャーいってたような。


「実質、今回が初めてだ」

「じゃあ、僕が回り方を教えてあげるよ」


 アキラが右腕でガッツポーズをとる。


 ちなみに、今日は愛用のウィッグ、ワンピース、斜めがけカバンという組み合わせ。

 耳からハートのイヤリングをぶら下げており、普通にかわいい。


「ママたちは先に入園しているわ。夜の花火まで残るけれども、アッちゃんたちは好きなときに電車で帰っちゃっていいからね」

「は〜い」


 不破ママもワンピースだが、こっちは背中が開いたセクシーなタイプ。


「おい、母さん、腕を組んだら恥ずかしいだろうが……」

「いいじゃない、胸のトキメキが若さの秘訣ひけつよ」

「あのな……」


 トオルはフィギュアスケートの選手みたいに髪をでつけている。

 ちょいワルな兄貴って感じ。


「アキラの母ちゃん、わけえな」

「4人の中だと、一番テーマパークが好きだと思うよ」


 あはは、と苦笑い。


 リョウたちもゲートをくぐった。

 入り口を抜けた広場でとりあえず記念撮影。


「あ〜、なんか懐かしいかも」


 ゆったりしたBGM。

 聴いていると心がワクワクする。


「12年ぶりくらい? 何か思い出した?」

「若返った気がする」


 今日は遊びが目的だが、それだけじゃない。


 リョウはインスピレーションを得るため。

 アキラは人混みに慣れるため。


 このファンシー空間を利用して自己成長するのだ。


「さっそくだけど、ジュースを買ってこようかな」

「アキラが? 俺もついていこうか?」

「ううん、僕一人でいきます!」

「マジで……」


 夏祭りの記憶がよみがえる。

 リョウと離れ離れになったとき、アキラは一歩も動けなかった。


「迷子センターに連れていかれるとか、勘弁してくれよ」

「うぅ〜。そういわれると、心配になってきた」


 う〜ん。

 17歳の迷子とか、タチの悪いジョークみたいだし。


「そうだ!」


 リョウは携帯を取り出す。


「俺はここに座っているからさ。ずっと通話していたらいいんじゃないかな」

「おおっ! その手があったか! リョウくん、冴えてる!」


 アキラはマイク付きのイヤホンを取り出した。

 携帯にセットして、さっそく通話開始。


「ではでは、行って参ります」


 目の前と受話口。

 二つの声が重なる。


「変わりはないか?」

「うん、平気。リョウくんと一緒に歩いている気分」

「俺もだ」


 数分後……。


「どう? ジュース売り場はあった?」

「ありました!」

「何にしよっか?」

「コーラにする? レモンティー? それともお茶かお水?」


 あれこれ相談した末、ウーロン茶にしておいた。


「一人でおつかいに行けました! 大成功なのです!」


 アキラが小走りで戻ってくる。


 褒めて、褒めて、と言いたそうな表情をしていたので、リョウは頭をナデナデしてあげた。

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