第164話

 アンナと二人きりになったとき。


「ねえねえ、ふぅ子さんって、実は不破くんのお姉さんか、親戚の人だったりする?」


 思いがけない質問に、リョウは面食らった。


「どうしてそう思うの?」

「すごい美人オーラが出ているから。あと、目だよ、目。形がそっくりだと思うんだ〜」


 学園祭のときに撮ったアキラの写真を見せられる。


「たしかに……」


 まあ、同一人物だしね。


「双子だったら顔認証システムを突破できる、みたいな話があるよね。ふぅ子さんなら、うっかり不破くんの顔認証を突破できたりして」

「あはは……それはさすがに期待しすぎかも。マンガのネタとしては十分おもしろいが……」

「だよね〜」


 お手洗いからアキラが戻ってきた。


「どうしたのですか?」


 アンナは携帯とアキラを並べる。


「う〜ん……やっぱり似ている……間違い探しみたい」

「はい?」

「いえ! 何でもないです!」

「むむむ……」


 リョウはアンナの肩をちょんちょんした。

 それから目の下にタッチする。


 ホクロ。

 アキラにはなくて、ふぅ子さんにはある。

 アイライナーで描いた人工ホクロだけれども。


 おおっ!

 アンナがポンと手を鳴らす。


「やっぱり他人の空似そらにだ!」


 よかったな。

 保険のホクロが役に立って。


「ふぅ子さんとアキラが似ている、て話をしていました」

「それは、それは……。ますます不破くんに興味が湧いてきました」

「ええ、俺もアキラに姉がいたら、ふぅ子さんみたいな人じゃないかと、常々思いますよ」

「うふふ〜。照れますね〜」


 アキラめ。

 この状況を楽しんでいやがる。

 アンナになら正体がバレても平気ってことかな。


「悪い、悪い、待たせたな」


 ミタケが戻ってきたので出発する。


「遅かったな。もしかして、便秘か?」

「はぁ⁉︎ ちげえし!」

「だったら、妹ちゃんに電話か?」

「ああ、そうだよ。朝から全身が痛いとかいうんだ。そのくせ、病院は嫌とか、お兄ちゃんは遊んできてとか、どうも様子がおかしくて……」


 リョウはギフトショップを指さす。


「お土産を買ってやれよ。あれこれ心配するより、今日の楽しかった話を聞かせてあげた方が、妹ちゃんも早く元気になるんじゃねえの?」

「宗像も買うのかよ、不破へのお土産?」

「そうだな、あいつ、猫が好きだし」


 アキラの目がきらりと光る。


「ねえねえ、リョウ、これなんかどうです?」


 マヌルネコのぬいぐるみを差し出された。

 頬がふっくらしており太々しいニャンコだな。


「それ、ふぅ子さんが欲しいって意味ですか? それともアキラへのお土産におすすめ、て意味ですか?」

「嫌ですね〜。お客さんにお土産をねだるほど、私は強欲な女じゃないですよ〜。私は自腹で、このスナネコぬいぐるみを買いますから〜」


 隣ではアンナとミタケの会話が弾んでいる。

 ユズリハに渡すお土産について、かなり迷っているみたい。


「このキーホルダー、かわいいな。自分用に買っちゃおうかな。須王くんもどう? て、男の子はあまり動物のキーホルダーとか好きじゃないよね」

「いや、嫌いじゃないけれども……俺って物の扱いが雑だから……ブチッて切れたときがショックというか」


 わかるよ、キング。

 キーホルダーて、一年くらいで壊れちゃうよな。


「だったらさ、3人でおそろいのを買おうよ! 私と須王くんとユズリハちゃん! それなら、須王くんも、ちょっとは大切に扱うんじゃない!」


 アンナが女神みたいにニパァと笑う。

 あまりのまぶしさに、ミタケは完全フリーズ。


「一緒?」

「うん! だって、私たち、仲良しクラスメイトだし。もしかして、嫌だった?」

「そんなわけない!」


 動物園が終わったらランチタイム。

 おしゃれなパスタ屋さんに入る。


「なんかダブルデートみたいで楽しいですね」


 アキラの超ストレート発言に、アンナとミタケが赤面した。


「リョウもそう思いませんか?」

「ふぅ子さんって、意外に空気を読まないっすね」

「あらあら、リョウだって同じことを考えているくせに」

「あのね……」


 アキラって、外堀を埋めていくの、好きだよな。


「俺は……デートとかよく分かんねえし」


 ほらほら。

 ミタケが萎縮いしゅくしちゃったじゃないか。


「大丈夫ですよ、ミタケくん。誰だって、最初は恋愛初心者なのです。ミタケくんも、昔は、バスケット初心者だったでしょう」

「まあ……たしかに」

「続けているうちに、好きになるものです。誰だって、案外、付き合い始めたときは、不安の状態からスタートするのですよ」

「そんなもんっすか。まあ、バスケも、一通り技を覚えたころが一番楽しいですし」

「でしょう。考えたり、悩んだり、そんな過程が楽しいのです」

「なるほど」


 学校では物静かなアキラが、ミタケにアドバイスしているのかと思うと、なんか笑えるな。

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