第四章 夏休み(中)

第48話

 ショッピングモールの約束から二日後。


「つ〜か、俺はタクシー屋じゃないんだけどな」


 トオルが運転するレンタカーで別荘まで連れていってもらった。


「うわぁ、きれい」


 キラキラと光る海がまぶしい。

 絶好のサーフィン日和らしく、いい波が立っている。


「トオルくん、この後の予定は?」

「午後の2時からスタジオでレコーディングだよ」

「おおっ! すごい! プロの歌手っぽい!」

「いちおう、プロの端くれなのだが……」


 犬神トオルの名義で、深夜アニメのエンディングを歌うことが決定したらしい。


 アキラいわく、クールぶっているけれども内心では舞い上がっている、とのこと。


「なんてタイトルの曲?」

「恋する乙男オトメン☆ラブハリケーン」

「うわぁ、心臓に毛が生えてないと歌えないやつだ。黒歴史の予感がする」

「うるせぇ。これが大衆のニーズなんだよ」


 リョウも笑いを噛み殺すのに必死。


 今度、キョウカに曲の感想を教えてもらおう。


「宗像友人、マンガの調子はどうだ?」

「そこそこ好調って感じです。マンガに熱中しすぎて、水泳中に溺れてしまうくらいには」

「やるな〜。アッちゃんが足引っ張ってない? この子、典型的な構ってちゃんだから」

「いい意味でプレッシャーですね」


 誰が構ってちゃんだ!

 アキラはそういって運転席のシートをポンポン叩いた。


「ほら、着いたぞ。いいな〜。俺も休暇がほしいぜ」

「トオルくんはこの時期が勝負どころでしょ。ほら、仕事仕事」

「いっとくけどな、20歳はたち過ぎたら毎年が勝負どころだから」

「うわぁ〜。大人ってつまらない生き物……」


 トオルはキーケースから何かを取り出そうとした。


「お前ら、ちゃんと避妊具は持ってんの?」

「はっ⁉︎」

「えっ⁉︎」


 リョウとアキラに衝撃が走る。


「冗談だよ。真に受けるなって。じゃあ、二日後に迎えにくるから。火の取り扱いには気をつけろよ。あと恋の火遊びはすんな」


 トオルくんのハレンチ男〜!

 そんな声に送り出されて、レンタカーは走り去っていった。


「さて、荷物を置いたら掃除しますか」


 初めての別荘にドキドキ。


「けっこう広いな」


 全部で五つの部屋がある。

 うち二つがベッドルーム。


 トイレは二つ。

 浴室も二つ、片方はシャワーのみ。


「豪邸じゃねえか。ここに永住してもいいくらいだ」

「最寄りのコンビニが遠いけどね」


 蛇口をひねると、ゴボゴボと音がして、茶色い水が吹き出してきた。

 しばらく出しっぱなしにすることに。


「電気とガスはOKだね」


 窓を開けると気持ちのいい潮風が流れてくる。


「今から約48時間、リョウくんの英気をたっぷりと養います」

「おう。戦士にも休息は必要だ」


 今日のアキラ。

 ノースリーブのワンピースを着ている。


 夏っぽくて愛らしいけれども……。

 形のいいわきのラインが気になって仕方ない。


「ん? リョウくん、もしかして腋フェチ?」


 しかもバレた。


「軽い方のな」

「えっ? 軽い方とか重い方とかあるの?」

「重い方だとペロペロしたくなる」

「うはっ⁉︎」


 ガバッと隠された。

 恥じらうポーズもかわいい。


「さっさと掃除を終わらせるぞ」


 掃除機をかけて、水拭みずぶきをして、お風呂やトイレを洗った。

 物置きのところでバーベキューセットを見つける。


「これ、使ってもいいのか?」

「もちろん。炭とか着火剤も自由に使っていいってさ」


 さっそく庭でバーベキューしてみることに。

 肉とか野菜はたくさん買ってある。


「リョウくん、火をつけた経験はある?」

「任せとけ。キャンプを題材にしたマンガで10回くらい学習している」


 手順を思い出しつつトライしてみる。

 ところが……。


「火がつかねえ」

「おとなしく動画で勉強しましょう」


 今度は一発でついた。


「うまい! うまい!」


 アキラは大げさに褒めてくれる。


 カット野菜、牛バラ肉、ソーセージを焼いてみた。

 焼肉のタレをからめてみると、普段、家で食べるより何倍もおいしい。


 麦茶と青空。

 こっちの組み合わせも最高。


「リョウくん、楽しい?」

「メッチャ楽しい」

「僕も楽しい」


 アキラは天使様みたいにニコッと笑った。

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