第151話

「えっ〜⁉︎」

「不破くんたち、帰っちゃうの⁉︎」

「一緒にご飯を食べたかったのに〜」

「ごめん、ごめん、外せない用事があってね」


 バスを降りたところで、サナエたちと別れることになった。


 ガッカリを隠そうとしない演劇部のメンバーたち。

 するとサナエがお母さんみたいに腰に手を当てて説教をはじめる。


「はいはい! 不破くんを困らせない! せっかくボランティア活動に協力してくれたんだから! クリスマスなのに不破くんの予定をおさえるの、メッチャ難しいんだよ! ハッキリいって神業かみわざなんだよ! 素直に感謝して、いさぎよく諦めるべし! 贅沢ぜいたくはいわない!」

「そうだね〜」

「また会えるといいな」


 バイバイと手を振る。


「宗像くんもありがとうね」

「絵、メッチャうまかった!」

「マンガ、がんばって! 応援している!」


 胸がじ〜んとなる。

 ポカポカした気持ちのまま、帰りの電車にのって、いつもの駅へ向かった。


「今年最後の大活躍だったね」

「誰かの役に立てたら、て思っていたけれども、けっきょく、元気をもらったのは俺の方だよ」

「それがボランティアの醍醐味だいごみなんだ」


 携帯のメモ帳を立ち上げて、今日あったことを忘れないうちに記録しておく。


 最初はドキドキしたけれども。

 思ったより楽しかったな、これも人生経験だ。


 あと、クリスマスキャロルのお話。

 一度でいいから本で読んでみたい。


「アキラの家って、クリスマスキャロルの本ある?」

「もちろん。絵本のと、児童文学のと、翻訳版の3つがあるよ」

「貸してくれ。難しい文章は苦手だから、児童文学のやつがいい」

「それは僕の家に入るための口実かい?」

「はぁ? それは深読みしすぎ」


 アキラに頬っぺたをツンツンされた。


「そこは嘘でも、僕の家に入りたい、て答えなさい」

「まさか、アキラ、ケーキとか用意しているのか?」

「うむ、帰りにスーパーに寄って、飲み物だけ買おうと思っている」


 うおっ⁉︎

 久しぶりの不破家だ。

 しかも、アキラから誘ってくるなんて。


「リョウくんは、もっと僕を求めろ」

「どうした、急に?」

「普段から、もっと僕の家に入りたいアピールをしなさい。そうしておけば、仕方ないな〜、クリスマスくらい家に入れてあげるか〜、という口実ができる。じゃないと、僕が一方的にリョウくんを誘っているみたいだろう」


 いやいや……。

 ボロが出るから友だちの距離感をキープしよう、みたいな約束だったが。


「だったらさ、アキラの部屋に入れて」

「それは却下!」

「なんなの? 散らかっているの?」

「そうじゃない。僕の趣味を見られるのが恥ずかしいんだよ」


 気になる。

 猫と本と男装以外に何かあるのか。


 近所のスーパーに寄った。


 クリスマスの定番といったらシャンメリー。

 ぶっちゃけ、色つきサイダーなのだけれども、ちょっぴり大人の気分を味わえる。


「今日、リョウくんの両親は?」

「父親の仕事が休みだから。朝から2人で出かけたよ。アキラの家は?」

「お父さんは仕事だよ。お母さんは友だちとバスツアーに出かけた。クリスマス限定のイルミネーションを楽しめるツアーがあるんだってさ。予約が殺到するからね。受付開始と同時にポチっていたよ」

「楽しそうだな、おい」


 兄のトオルは仕事らしい。

 ファンとの交流会。


 キョウカも参加するのかと思いきや、クリスマスは家のイベントがあり、お手伝いに駆り出される、みたいな話を終業式の日に聞かされた。


「お邪魔します」


 誰もいない不破家に入る。


 相変わらずハイセンスなリビングだ。

 でっかいクリスマスツリーを飾っているし。


「ちょっと待ってて。着替えてくるから」


 エアコンが効きはじめたころ、アキラが戻ってきた。

 ピンク色のワンピースを着ている、腰のところにリボンがついているやつ、本気で男心をくすぐる服装にびっくり。


 恥ずかしそうにモジモジするアキラ。

 リョウまで照れてしまう。


「かわいいな」

「それは僕がかわいいという意味? それとも服がかわいいという意味?」

「どっちもかわいい」

「うむ、合格」


 これと似たやりとり、3回目くらいかな。

 でも今日が一番かわいい。


「このワガママ姫め」

「はぅ」


 アキラをぎゅ〜と抱きしめた。

 女の子の匂いがする、衣越しに伝わってくる体温にいやされる。


「リョウくん! ストップ!」

「えっ……でも、まだ3秒しか……」

「死ぬ死ぬ! 僕の心臓が止まるから!」

「くぅ〜、残念……」


 ここまでデレデレのアキラ、初めてかも。

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