第150話
ケチで、ずる賢くて、人付き合いも悪い。
お金にしか興味のないバリバリの
こんな大人、一度くらい見たことはないだろうか。
いい物語の条件、みたいな話をリョウは10回くらい聞いたことがある。
ストーリーの前と後で変わっている部分が明らかな話は、いい物語にカウントされるらしい。
そういう意味だと、悪人スクルージが一夜にして善人スクルージに改心するクリスマスキャロルは、典型的な良い物語といえるだろう。
あと、メッセージ性が秘められている。
小学生のときは気づけなかったけれども、
『資産家はお金を貯め込まずに、市民のため、地域社会のため、なるべく散財してやれ!』
『じゃないと、孤独で
という著者チャールズ・ディケンズの声が聞こえないだろうか。
やっぱり、クオリティが高い!
絡まっていた糸が
そうだ、リョウの欠点。
ものごとを複雑に考えちゃうこと。
シンプルにまとめないと。
それでいて、奥が深くて、個性もある。
て……。
それが一番難しいんだよな。
アッハッハ! という大爆笑が起こった。
サナエの
台本のテイストはコミカル全開。
だから、サナエも飛び跳ねたり、転んだり、泣いたり、とても大変そう。
未来のシーン(スクルージが自分のお墓を見るところ)で胸がジーンとなる。
かと思いきや、
「こんな死に方は嫌だ!」
と叫び出して、また大爆笑。
リョウはボランティアの一員として来たけれども、気づけば、入所者や施設スタッフと一緒に物語を楽しんでいた。
「どうだった?」
ステージが終わったあと、アキラが駆け寄ってきた。
「安定の美声だな。放送部にでも入った方がいいんじゃねえか」
「むふふ〜。
この後はみんなで塗り絵をやった。
サナエたちが、サンタとかトナカイとかツリーの紙を配る。
入所者が色を塗るので、リョウたちはそのサポートをするのだ。
「これ、なに?」
と訊かれた。
「サンタさんだよ」
とリョウは返す。
すると、また
「これ、なに?」
と訊かれた。
声が小さかったのかなと思い、ちょっと強めに、
「サンタさんだよ」
と伝える。
ところが、3度目の
「これ、なに?」
が飛んできて参ってしまう。
サナエに肩を叩かれた。
「その人はね、知っていてわざと質問しているんだよ」
「はぁ……」
「宗像くんを困らせて遊んでいるんだ」
マジかよ⁉︎
どうすりゃいいの⁉︎ という感情が顔に出てしまう。
「アキちゃんならどうするだろうね」
「アキラなら?」
「うん!」
難しいな。
こういう問題って、正解が一つじゃないよな。
リョウにできること。
たぶん、絵を描くこと。
そうだ!
手近にあった紙をひっくり返して、黒の色えんぴつを握った。
さらさらっと似顔絵を描き上げる。
「これ、プレゼント」
「…………」
入所者が顔を近づける。
そしてニカッと笑ってくれた。
よかった。
満足してくれたらしい。
「へぇ〜、宗像くん、似顔絵描くの、うまいね」
「ちょっとした特技なんだ」
僕も描いてほしい、という入所者が手を挙げた。
それも1人じゃなく、3人とか、5人とか。
こっから先は大忙し。
1人に描いてあげたのに、他の人は断るわけにはいかないし。
「宗像画伯だ」
「がんばれ〜」
サナエたちにも応援されながら描きまくる。
集中力100%でがんばったから、終わるころにはヘロヘロに。
「おつかれさま」
額に紙パックのジュースが当たった。
アキラだった。
「ジュースは施設の人からプレゼント。ボランティアのお礼だってさ」
「なんか、悪いな」
「いいの、いいの。持ちつ持たれつだから」
フルーツジュースを一気飲みする。
「どう? 楽しかった?」
「おう、意外に楽しかった」
「情けは人の為ならず、じゃないけれども、ボランティアって、半分は自分のためにやるよね。ボランティアをやると、自分は世界から肯定された気分になるから」
「世界から肯定?」
またまた小難しいキーワードだな。
「うん、一言でいうと、自分はこの社会で生きていていいんだ、ていう感じ」
「なるほど。ラストシーンのスクルージも似たような気持ちだったのかな」
アキラは一瞬、
「そうかもね。いや、きっとそうだ。リョウくんは、時々、鋭いことをいう」
と笑った。
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