第241話

 リョウが冷蔵庫へいき、麦茶をグラスに注いでから戻ってくると、画像が送られてきていた。


「わぁお……」


 映画スターみたいな声が出てしまう。


 純白のドレスだった。

 結婚式で花嫁がまとうウェディングドレスである。

 肩から腕にかけて、レース素材になっており、清楚かつ上品なアキラにぴったりだと思われる。


『オーダーメイドのドレスって、全然安いのね』

『これだと180万円の予算に届かないから……』

『ティアラとかネックレスをつけないと』


『待て待て』

『予算が180万円っておかしいだろう』


『アキちゃんが18歳になるから』

『数を合わせたのだけれども……』

『そんなにおかしい?』


『桁が間違っている』

『あと、オーダーメイドのドレス……』

『2ヶ月から3ヶ月はかかるから、間に合わんだろう』


『あ、そっか』

『失念していた』

『カナタ先生に相談して正解』


 バカじゃねえの?

 と打ちかけて、すぐに消した。


『ドレスを買って何するの?』

『記念撮影でもするの?』


『アキちゃんと結婚式を挙げる』

『とりあえず、都内の式場で』


『いやいや』

『それもおかしい』


『カナタ先生、知らないの?』

『結婚しなくても、結婚式は挙げられるんだよ』


『なにそれ?』

『生前でもお葬式できる、みたいな?』


 お酒を飲んでいるわけじゃないのに頭が痛くなってきた。


『18歳っていいわよね』

『高校生かつ18歳って……』

『女の子が一番おいしい時期だと思わない?』


『いわんとする事は理解できる』

『夜のお仕事デビューできるってやつだろう』


『そう、それ』

さなぎから羽化したばかりのチョウみたいな』


『でも、幻想じゃね?』

『レン先生の女子校だって……』

『そういう系の仕事と深夜のアルバイト、NGのルールだろう』


『でも、矛盾しているわ』

『私、マンガの中で性交シーン描いたもん』

『斬姫じゃない女性キャラだったけれども……』


 そうしたらSNSでバズった。

『17歳の女の子が性交シーンを描いて、それを全国へ出荷して、誰でも読める日本すげぇw』

 みたいな記事が立ちまくった。


 レン伝説の序章。

 そう呼ぶに相応しいエピソードだ。


『あれって学校から怒られなかったの?』


『私は一流だから怒られない』

『三流だったら停学もあったかな』

『表現の自由が死んでいないということを、私は証明したかっただけ』


 思わずうなってしまう。

 こういうレンの魅力が、作中に宿っているんだよな。


『あれ描いたの、私が17歳になったばかりだから』

『23歳くらいの私があれ描いても、話題にならないでしょう』


『つまり、若さを有効活用したと?』


『一生で一度きりね』

『やり過ぎたと反省している』


 ウイスキー片手にニヤニヤしているレンを想像して、このやろ〜、とリョウは内心で思うわけである。


『レン先生の自慢話はわかった』

『俺の相談にも乗ってくれよ』

『予算5,000円以内なら何を買う?』


『そうね〜』

『アキちゃんの好きなもの』

『本かしら』


『でも、アキラ、欲しい本は自分で買うだろう』

『もうちょっと特別な物がいい』


『だったら、特別な本を買ったらいい』


『存在するの?』


『ある』

『この時期にぴったりのやつが』


 レンからURLが送られてくる。

 商品サイトにアクセスしたリョウは、嬉しさのあまり指を鳴らした。


『さすがレン先生』

『サンキュー』


『ヒント、あげたから』

『私の邪魔はしない、いいね?』


 これでプレゼントは決まった。

 デートコースを考えないと。


 目的地は3箇所か4箇所だな。

 歩き過ぎるとアキラがヘトヘトになる。


 1箇所はおしゃれなカフェにしよう。

 サイフォン式のコーヒーを飲んでみたい、とアキラはいっていた。


 当日に雨が降ることも考えて、外よりも中がいい。

 美術館にしておくか、ちょうどマンガ展をやっている。


「電車で移動すると、15分くらいだから……」


 アキラがどんな反応をするかな〜。

 そんなことを想像しながら計画を練ってみた梅雨の長夜だった。

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