第20話

「サナエちゃん、早合点はやがてんしているようだけれども……」


 アキラは懐かしい友人を落ち着かせる。


「リョウくんは僕の友だち」

「んっ⁉︎」

「同じ高校で、しかも家が近い」

「そうなの⁉︎」

「クラスメイト、かつ、部活の仲間」

「えっと……つまるところ……」

「恋人ではない」

「……」


 リョウはぺこりと頭をさげる。


「ご紹介にあずかりました、宗像リョウといいます」


 沈黙すること三秒。

 サナエが限界まで頭をさげて、ゴツン! とテーブルに頭突きした。


「急に怒鳴どなっちゃってごめんなさい!」

「いや、これっぽっちも問題ないよ。むしろ頭は大丈夫? すごい音がしなかった?」

「元からバカなので平気です!」


 なんだろう……。

 悪い子じゃなさそう。


「ときに、サナエちゃん……」


 アキラが咳払いする。


「こっちに住んでいたんだ」

「あれ? 伝えていなかった? この春からだよ」

「引っ越しする予定とは聞いていたけれども、いつ引っ越すのか、どこへ引っ越すのか、教えてもらっていない」

「うそっ⁉︎ ちゃんとハガキで住所を教えたと思ったのに⁉︎」

「届いていない。原因は不明だけれども……」

「うはっ⁉︎」


 サナエの表情が凍りつく。

 たぶんハガキの宛先をミスった。


「まあ、こうして再会できたわけだから、僕とサナエちゃんのあいだには、切っても切れない糸があるというか、万有引力みたいなパワーが働いたということで……」

「あはははは……友情パワーかな……なんちゃって」


 リョウたちは自己紹介を交わした。


 フルネームは清水しみずサナエ。

 小学生時代、アキラとよく遊んだ仲。


 好きなことは読書、ドラマ鑑賞、ペットの世話。

 高校の演劇部に所属しており、台本を書いたり、衣装を手づくりしている。


 ペットショップで鳥のエサと、手芸センターで生地を買うため、今日は商店街までやってきた。

 学校にいるとき方言が出てしまい、失笑を買うのが目下の悩み。


「小学生のとき、アキちゃんと一緒に、地元の子ども演劇クラブに入っていたんですよ」

「へぇ……アキラがねぇ……演劇クラブねぇ」

「サナエちゃん、その話は……」


 アキラとしては、ほじくり返されたくない話題らしい。


「次は俺の番か……」


 アキラと仲良くなった経緯などを伝えた。

 趣味でマンガを描いていることも打ち明けておいた。


「自分のマンガをWEB上で公開しているのですか⁉︎ もしかして、出版社に持ち込みとかするのですか⁉︎」

「いいや、そこまで本格的じゃない。マンガ好きの誰かに読んでもらえたら満足って感じ」

「でもでもでも! 普段から絵の練習をしているのですよね⁉︎」

「独学だけどね。実戦の中で鍛えている」

「修行って感じでストイック!」

「そうそう、修行に近い」


 なにいってんだ。

 俺は……。


「どう、リョウくん、サナエちゃんは愉快でしょう」

「さすがアキラの旧友だな。場を和ませる天才だと思うぞ」

「いやいやいや⁉︎ 天才どころか青二才ですわ!」


 必死に否定する姿も愛嬌あいきょうたっぷり。


「でも、よかった。アキちゃん、元気そうで」

「サナエちゃんこそ。久しぶりに会うと大人っぽくなったね」


 三人で他愛のない話をした。

 自然、アキラのことが話題の中心となる。


「アキちゃん、ワンピースを着られるようになったんだ」


 サナエが切り出す。


「実は今日がはじめて。でも、例の症状は確実に良くなっているよ」


 そうか。

 サナエも秘密を知っているのか。

 思いがけず同志を見つけた気分である。


「ごめん、ちょっとお手洗いに」


 アキラが席を外す。


 するとサナエの目が光った。

 いたずらっ子みたいに口の端を持ち上げる。


「ねえねえ、宗像くん、実際はどうなの? アキちゃんのことが好きなの?」

「それは友人として好きかという意味じゃなくて、異性として好きかという意味か」

「もちろん! 他にどんな解釈があるってんだよ!」


 やっぱり男女の友人とは思ってくれないらしい。


「アキちゃん、美人だしね。ヤマトナデシコだしね。柔軟剤みたいな優しい匂いがするしね。あと、頭がいい! でも、例の症状があるから、恋人を探すどころではないし。もし、アキちゃんが宗像くんのタイプなら、これは友人から彼氏に昇格する大チャンスだと思うんだ」

「そうだな……」


 嘘をつくことを許さない、ピュアな瞳を向けられる。

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