第129話

『須王くんって、実は、キョウカのことが好きなんじゃないかな』


 アンナは、大きな勘違いをしている。

 ミタケが好きなのは、キョウカじゃなくて、アンナなのに。


「ねえ、リョウくん、最近の雪染さんと須王くんの会話を見ていると痛々しいよね」

「わかる。雪染さん、無理くり神楽坂さんの話題をぶっ込んでくるし」


 う〜ん。

 ズレてんだよな。

 そもそも、アンナって、自分がモテるって自覚がないのかな。


 普通にかわいいと思うが……。

 アンナは謙虚だから、


『私なんかよりキョウカの方がかわいいよ!』


 とボカしたりする。


 モヤモヤしたまま1週間が過ぎた土曜日。

 リョウたちは、大勢の買い物客でにぎわうショッピングモールへやってきた。


「約束の15分前だから、まだ誰も到着していないね」


 アキラが男物の腕時計をチェックしながらいう。

 そう、今日のアキラは王子様モードなのだ。


「アキラの服、格好いいな」

「まあね。トオルくんのお下がりだから」


 革ジャケットにジョグジーンズ。

 サイズがピッタリだけれども、何年前に買った服だろうか。


「お〜、いたいた、不破くんと宗像くんだ」

「アンナは律儀だな〜。待ち合わせなんて、時間ちょうどにいけばいいのに」


 登場したのはアンナ&キョウカのペア。


 アンナはかわいい系の服装だから、年相応という感じ。

 キョウカはきれい系のコーデだから、大学生のお姉さんみたいな風格がある。


 今日は6人で集まって、映画を見て、お茶する予定だ。

 残りの2人はというと……。


「すまん、待たせた」


 5分くらい遅れて登場したのはミタケ。

 その背中に隠れるようにして女の子が立っており、


「ほら、お前もあいさつしろよ。お前が参加したいって希望したから、連れてきたんだ」

「は……は……はじめまして、お兄ちゃんがいつもお世話になっています」


 妹の須王ユズリハちゃん、16歳。

 メッチャ照れているんだけれども、性格の問題というより……。


「うわぁ、不破先輩がいる! しかも、私服だ! 握手してもらってもいいですか⁉︎」

「うん、いいよ」


 アキラの大ファンなのである。


 兄妹の身長差がすごいな。

 たぶん、35cmくらいある。


 ミタケが存在感のあるゴリラだとしたら、ユズリハは愛嬌あいきょうたっぷりのハムスターという感じ。


「雪染先輩に神楽坂先輩だ! 学園のマドンナが2人も!」

「はじめまして、こちらこそよろしくね」

「にゃはは〜。マドンナだってさ〜」


 そしてリョウと目があった。

 体育祭で有名になったから、リョウの名前くらいは知っているかと思いきや、


「宗像先輩ですよね! 絵がとても上手い! プロデビュー間違いなしの!」

「あれ? 俺がマンガを描いてんの、知ってんだ?」

「はい、見てくれは怖そうだけれども、とても繊細せんさいな絵を描く人だと聞いています!」


 まあ、プリンス様の番犬だしね。

 妥当な評価かもしれない。


 人数がそろったところで、映画のチケットを受け取りにいった。

 あらかじめキョウカがネット予約しているから、6人が横並びの席になる。


 ここで問題。

 どんな並びで座るのか。


 数学の設問じゃないけれども、

(1)リョウとアキラは隣

(2)アンナとキョウカは隣

(3)ミタケとユズリハは隣

 というのが前提条件。


 あと、ユズリハはアキラの隣に座りたそうな顔をしている。

 となると、ミタケの隣に座るのが、アンナなのか、キョウカなのか、二択なのだが……。


「キョウカが内側に座りなよ」

「どうしたの、アンナ?」

「ほら、私ってトイレにいくかもしれないから。なるべく外側の席がいいんだ」

「へぇ〜、そんなんだ」


 ミタケとキョウカが横並びになっちゃった。

 アキラは笑いをこらえるのに必死で、ミタケは目をパチパチさせている。


「どうしたのですか、不破先輩?」

「いや、単なる思い出し笑い。ユズリハさんは恋愛映画とか好きなの?」

「はい、大好物です!」

「そうなんだ。僕たち、話が合うかもね」


 アキラが王子様スマイルを浮かべると、ユズリハは胸をキュンキュンさせている。


「キングはスポ根映画とか好きそうだよね」

「いいだろう、別に。そういう神楽坂だって、恋愛っていうより、アクション派だろう」

「前から気になっていたのだけれども……」

「おう」

「どうして、アンナは雪染さんなのに、私は神楽坂って呼び捨てなの?」

「そりゃ……名前が長いからだよ。神楽坂さん、だと長いだろう」

「ふ〜ん、そうなんだ」


 キョウカとミタケの会話を、アンナはニコニコ顔で見守っている。


 おそらく……。

 キョウカを呼び捨てにするのは、友だち感覚が原因だろうな。

 一方、アンナのことは異性として意識しているから、さん付けになるという理屈。


「どうしたのですか⁉︎ 宗像先輩までニヤニヤしちゃって⁉︎ 私、変なこといいました⁉︎」

「いや、ユズリハさんのお兄さん、わかりやすい人だな、と思ってね」


 映画の内容よりも、ミタケとその周辺を観察する方が、楽しいかもしれない。

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