第13話

「今日のリョウくん、ちょっと格好いい?」

「なんで疑問文なんだよ」


 アキラの服装は、パーカー、デニム、スニーカーという組み合わせ。


 首からコテコテしたシルバーアクセサリーをぶら下げており、かろうじて男子の体裁ていさいを保っている。


「アキラの私服はいつもオーソドックスだよな」

「悪かったな、これしかないんだ」

「ふ〜ん」


 リョウが油断していると、アキラの携帯がパシャリと鳴った。


「なっ……⁉︎」

「今日の記念に撮影」

「おいおいおい⁉︎ それは肖像権の侵害に当たるのでは⁉︎」

「別にいいじゃん、減るものじゃないし」


 アキラが保存ボタンをポチる。


「リョウくん、いつもより格好いいのは本当だし」

「こいつ……」


 まったく。

 油断も隙もない。


「一枚だけな」

「やった。お守り代わりにしよう」


 男子に向かって格好いいとか気安くいうなよ。

 アキラは女子だから、意識しちゃうだろうが。


「ほら、いくぞ。映画の時間もあるから」

「は〜い」


 電車に揺られながらショッピングモールへ向かう。

 ここでもアキラは王子様っぷりを披露してくれた。


「どうぞ、座ってください」


 途中駅で乗ってきたおばあちゃんに、サッと席を譲ったのである。

 アイドル級の笑顔に向こうは赤面しまくり。


「あと50歳若かったらね〜。ワタシもお兄さんに首ったけね〜」


 生娘きむすめみたいに目をキラキラさせる。

 すげぇ、一瞬で何歳か若返った。


「アキラ、心がきれいだな。ライオンの交尾動画を送ってきたやつとは思えない」

「くっ……黙れ……」


 ショッピングモールに到着。

 まずは映画館へと向かう。


 アキラが選んだのは、


『ビリオンゾンビ 〜ゾンビ1,000,000,000体 vs ヒューマン100人〜』


 というタイトル。

 B級映画の匂いがプンプンするのだが……。


「大丈夫! この監督と主演の組み合わせにハズレはないから!」


 アキラは太鼓判を押している。


「ランチが控えているから、ポップコーンは要らないとして……ドリンクは一個でいいよね」

「はっ⁉︎」


 ちょっと⁉︎

 間接キスか⁉︎


 いや、小学生じゃあるまいし照れるな。

 それは理解できる。


 でも、アキラから切り出してくるのは予想外だった。


「ほら、僕ってあまり飲まないから」

「ああ、そうか、そうだよな」

「経済的にいこう」


 というわけで一個のドリンクをシェアすることに決定。


 映画が始まる。

 タイトル通りゾンビだらけの世界。

 パンデミックが発生して、文明が滅んでしまったという設定だ。


 エネミーは10億体のゾンビ。

 それに人類の生き残り100人が挑むというストーリー。


 一般ゾンビは雑魚キャラなのだが、中には武器を扱うゾンビがいたり、女王ゾンビ的なボスキャラがいたり、なかなか手強かった。


 圧倒的な兵力差に、どんどん追い詰められていく主人公たち。


 けれども、犬死にしたキャラはいない。

 みんなが家族や仲間を守るために散っていった。


 そしてラストシーン。

 アメリカ映画らしく、主人公が核のボタンを押す。

 全人類のため、愛する人のため、10億体のゾンビもろとも自爆したのだ。


 生き残ったのは88人。

 そこから人類史がリスタートする、という壮大なエンディングだった。


 なんだ、これ。

 B級映画のフリをした名作じゃないか。


 あと3歳若ければ、リョウだって映画館のド真ん中で号泣したはず。


「おい、アキラ、泣いているのか」

「いいや、泣いていない」

「でも、声が震えて……」


 ゴツンッ!

 思いっきり肘打ちされた。


「痛ッ……」


 アキラが選んだタイトルなのに……。

 墓穴を掘っちゃうなんて、中々お茶目といえる。


「うるさい! 僕は感受性が豊かなんだ! リョウくんだって泣きそうだったくせに!」

「ふ〜ん、映画館で泣くなんて、アキラ、意外とかわいい」

「うぅぅぅぅ〜」


 言い過ぎたと反省したリョウは、そっとハンカチを差し出した。


「良い作品だった。いや、傑作だった。教えてくれてありがとう。だから、これを使ってくれ。気にせずに使ってくれ」

「ありがとう。洗濯してアイロンかけてから返すね」

「いや、そこまでしなくてもいい」


 残っていたドリンクに手を伸ばす。

 二人でシェアしたストローが、オレンジみたいに甘酸っぱい。


「よ〜し! ご飯を食べて、猫カフェに行くよ〜!」


 アキラが小学生みたいにニカッと笑った。

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