第14話

 映画の口コミサイトを開いた。


『メチャクチャ熱い展開』

『B級映画のフリをした良作かも』

『10億体 vs 100人とか面白いに決まっている!』


 好意的な声がつらつらと並んでいる。


「どうだ! 僕の目に狂いはなかっただろう!」

「はいはい、さすがだよ」

「えっへん!」


 アキラがぺったんこの胸を張る。


 貧乳かな? サラシかな?

 リョウはまったく違うことを想像してみる。


 ショッピングモールから歩くこと約10分。

 オムライスで評判の洋食店に入った。


 リョウが選んだのは一番人気のデミグラスソース。

 アキラは50円高い三種のチーズソースを注文する。


「アキラって、昔、猫とか犬を飼っていたのか?」

「ううん、我が家はずっとペットNG。でも、田舎のおじいちゃん家に柴犬と三毛猫がいてね。帰省するたびに会っているよ」

「ああ、うちの田舎も犬がいるな。かわいさの欠片かけらもない、吠えまくる猛犬だけれども」


 ふわふわのオムライスが運ばれてくる。

 店員さんがナイフを入れて、目の前で卵をパカッと割ってくれた。


「将来、独り立ちしたら、僕は猫を飼いたいな。ほら、犬はどうしても朝晩の散歩がいるから。忙しいサラリーマンには不向きだよね」

「ペットのいる生活か。でも、単身者がペットを飼ったら、旅行とか出張にいけないだろう」

「だから、猫友だちを見つける。持ちつ持たれつ」


 ふ〜ん。

 アキラなりに将来のことを考えているのか。


「ねえねえ、リョウくん、オムライスを一口交換しよう。というか、僕は完食できないと思うから、多めに取っちゃってよ」

「女の子かよ」


 アキラは取り皿を置いて、オムライスをたくさん盛ると、こっちへ差し出してきた。

 代わりにリョウの皿から一口奪っていく。


「うん、おいしい」


 幸せそうににっこり。


「本当に一口でいいのか?」

「いいの、いいの、ダイエット中だから」


 女の子かよ。

 今度は内心で突っ込んでおく。


「お店のオムライスって、一定のクオリティを超えると、全部100点みたいに感じるよね」

「その気持ち、わかるかも。逆にラーメン屋で、このラーメン100点だな、と感じることは滅多にないな」


 会計前。

 アキラがそっと千円札を差し出してくる。


「お釣りはいらないから。我がままに付き合ってくれたお礼」


 デートみたいな気遣いが嬉しいやら恥ずかしいやら。


 そして本日の本命。

 猫カフェへと向かう。


 まず店員さんに、当店のご利用は初めてですか? と訊かれた。

 そうです、とアキラが答える。


 隅っこにあるカウンター席でレクチャーを受けた。

 料金システムと店内のマップ。

 アイテムの使い方。

 NG行為。

 などなど。


 無料会員申込みフォームを埋めて、いざ、ふれあい開始。


「うわぁ〜」


 アキラが感動の声をあげる。

 ペルシャが一匹、向こうから寄ってきて、アキラの足元でウロウロしたのだ。


 にゃーごろ。

 鼻先をツンツンと寄せてくる。


「か、かわいい」


 アキラが手を伸ばしたら、するりと逃げてしまった。


「あぅ……」


 花弁のような唇から落胆らくたんの声がもれる。


「メチャクチャ人慣れしているな。でも、猫って夜行性じゃないのか」

「人間と一緒に暮らしている猫は昼間の方が活発なんだよ」

「なるほど」


 ニャンコを抱いたり、なでたり、ひざにのせてみたり。

 ネコジャラシを試すと、思いっきり食いついてきて楽しかった。


「見て見て、この子、目つきがリョウくんに似ている。名前もリョータくんだって」

「すっげぇ太々しい顔をしているが……」


 うっとりする猫。

 デレデレが止まらないアキラ。

 それを見守るリョウ。


 あっという間に予定の30分が過ぎる。


 あと10分!

 アキラに拝み倒されて延長することに。


「お小遣いが入ったら、また会いに来よっと」

「熱烈なアイドルファンかよ」


 そして会計の時。


「こちらが会員カードとなります。内容にお間違いがないか、ご確認ください。次回以降お持ちいただくと、特典を受けられます」


 受けとった会員カードをチェックする。


「おい、アキラ、お前……」


 女性を意味する『性別:F』が印字されていた。

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