第12話

「なんだ……これは……」


 リョウは目をパチパチさせた。


【白昼堂々! ライオン交尾! ラブラブ♪(※音量注意)】


 そんなタイトルの動画が再生されたからだ。


 しゃくは30秒くらい。

 さすが百獣の王、堂々たる交尾姿といえる。


『盛大に誤爆した……汗』

『リョウくんに観てほしかった動画はこっち↓↓↓』


 二つ目のURLが送られてきたのでタップしてみる。


【いやしの動物その1 〜すべり台で遊ぶパンダ〜】


 あぁ……。

 これは普通にかわいいやつだ。


 すぐに三つ目のURLも送られてくる。


【いやしの動物その2 〜飼育員さんに甘えるパンダの子ども〜】


 おい……。

 パンダ好きだな。


 もしかして、アキラ、メッセージ交換が楽しいから?

 その話題がほしくて動物系ムービーを探した?


 なんだか急にアキラのことがいとおしく思えてきた。


『このパンダ、日本の動物園?』

『うんうん』

『中に人間の子どもが入っているみたいだな』

『よくよく探したら背中にファスナーがあるかも……笑』


 そんなやり取りの後に四つ目のURLが届く。


【まさに天国 ひたすら猫に囲まれる動画その1】


 アメショ。

 マンチカン。

 スコティッシュ、などなど。


 ニャンコオールスターの面々がニャーニャー鳴きながら寄ってくる。


 アキラは猫派なんだ。

 そんなことを思っていると五つ目のURLが届いた。


【まさに天国 ひたすら猫に囲まれる動画その2】


 次はみんな仲良くお昼寝している姿。

 モフモフのお腹を天井に向けるポーズがかわいい。


『これは動物園じゃないよな?』

『うん、猫カフェ!』


 ラストに住所が表示された。

 場所はけっこう近い。


『次の土曜日、お店をのぞいてみようよ!』

『映画観て、食事して、猫カフェへ向かう流れ!』

『リョウくんの好きな映画は? リクエストはあるかな?』

『僕は、お昼ご飯は何でもいいけれども……』


 怒涛どとうのメッセージラッシュが飛んでくる。

 テンションの高さが画面越しに伝わってきて、リョウまでニヤニヤしてしまう。


『だったら、俺がランチのお店を探すから、観る映画はアキラに決めてもらっていいか?』

『わかった、僕に任せて。ハズレを引かない自信があるから』


 お互いにスタンプを送り合い、この日のやり取りは終了。


 ランチか。

 男ならラーメン屋か天丼チェーン。


 でも、アキラは少食の女の子。

 パスタやオムライスあたりがベターだろう。


 そして当日。

 リョウが身支度をしていると、パジャマ姿の母親が起きてきた。


「どうしたの、リョウ。熱心にヘアセットなんかしちゃって」

「これから遊びにいくんだよ。昨日もいったけど、お昼ご飯は要らないから」

「は〜い。だったら、私は出前でも取っちゃおうかな〜」

「外出しないと不健康なんじゃ……」


 せっかく整えた髪の毛を母親にいじられる。


「デート?」

「違うよ」

「嘘おっしゃい」

「クラスの友だちだって」

「ふ〜ん。女の子じゃないんだ」

「……違うよ」

「本当かな〜?」

「……」


 なかなか鋭い。

 これが女のカンというやつか。


「気をつけてね。あと、帰る前にはちゃんと一報入れてね」

「わかっている」


 玄関のドアを開けると、抜けるような青空が広がっていた。


 パン屋の匂いとか。

 小鳥たちの鳴き声とか。

 散歩する犬の息づかいとか。

 生命感にあふれる道を抜けて、いつものマンションへと向かう。


「やっほ〜」


 私服姿のアキラがエントランスから出てきた。


「よう」


 リョウはその頭から爪先をしげしげと見つめた。

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