第231話

 アキラの念願だった猫カフェへやってきた。


 オーダーしたのは遊び放題コース。

 アキラは大量の小説を、リョウはネーム原稿を、テーブルの上に広げる。


 1……2……3……。

 店内にいる猫は15匹くらい。

 さっそく1匹が寄ってきて、わざわざテーブルの上で横になった。


「かわええのう、お主」


 アキラがデレデレしている。

 小指を近づけると、小さい舌がぺろぺろと舐めてきた。


「今日は俺のおごりだ。なんでも注文してくれ」

「やった〜。じゃあ、僕はほうじ茶ラテを飲もっと。リョウくんは何にする?」

「こだわり水出しアイスコーヒーにする」

「今日は豪勢ですな〜」


 アキラが注文しにいってくれた。

 ドリンクのついでに、猫のおやつチュールを買っている。


「へぇ〜、チュールとか売ってんだな」

「数量限定で販売しているんだってさ」


 こっから先は大変だった。

 チュールを開封した瞬間、猫たちがいっせいにダッシュしてきて、アキラを取り囲んだのである。


 くれにゃ〜!

 目の色を変えて、アキラのジーパンを引っかいている。


「きゃ〜、かわいい〜、小さいライオンみたい」


 わんぱくな猫が1匹、アキラの体をよじ登ろうとしている。

 まさに猫ハーレム。


「やばい、やばい、ひっくり返りそう」


 リョウがヘルプに入って、アキラにくっついている猫を引きはがした。

 仲良くチュールを食べられるよう、地面に近いところまで下げてあげる。


「ねえねえ、見て見て、みんな二本足で立ち上がっているよ」

「人間の子どもみたいだな」


 新しい発見。

 チュールのためなら、猫も二本足にもトライするっぽい。


「あ〜あ、楽しかった」


 チュールが枯渇したら、アキラのモテ期は終了。

 ニャンコたちは思い思いのポジションへ帰っていく。


 黒猫が1匹。

 リョウの膝に飛び乗ってきた。

 そのまま寝ちゃったので、好きにさせてあげることにした。


「いいな〜、リョウくん。猫の方から寄ってきて」

「アキラはいつも学校でモテモテだろうが」

「それでもニャンコにモテたい」

「だったら、服にチュールの匂いを染み込ませたらいいんじゃねえか。マタタビエキスをかけておくとか」

「あっはっは、その手があったか」


 冗談はそのくらいにして、マンガの続きに戻る。


 30分くらい経った。

 黒猫をアキラに預けてトイレへいく。

 リョウが戻ってきてみたら、今度はアキラの膝の上で熟睡していた。


 まあ、猫だしな。

 寝るのも仕事のうちか。


「リョウくんのネーム原稿、どんな感じ?」

「う〜ん、もう少しで氷室さんのOKが出そう」


 ネームが終わったら、次は下書き。

 それが終わったら、ラストは清書。

 完成まで30%てところかな。


 さすがに飽きる。

 同じキャラの顔を毎日描くっていうのは、修行に近いものがある。


 そう考えると、レンはお利口さんだな。

『殺したいほど好きなアキちゃん』を主人公に採用したから、描くのに飽きることはなさそう。


「久しぶりにニャンコを描いて」

「いいぜ」


 さらさらっと15分くらいで仕上げる。

 たまたま店員さんがやってきて、


「お上手ですね」


 とベタ褒めされた。


「うまい、さすがリョウくんだ」

「猫を描いたの、年賀状のとき依頼かな」

「うんうん、あの日のリョウくんも、さすがの画力だったよ」

「どういたしまして」


 リョウは何回か屈伸してから、ネームの続きに戻った。


「もうすぐ1年だな」

「ん?」

「覚えていないのか? あの日も2人で猫カフェにいって」


 会員カードをつくった。

 性別のところにアキラは女性と書いた。


「ずっとアキラを男だと思っていたから」

「ああ、そうだね、懐かしいね」

「あの頃のアキラはひ弱だったよな。道の向こうから男性が歩いてきたら、俺の後ろに隠れちゃってさ」

「う……うるさい」


 アキラは本で顔をおおったけれども、照れているのが丸わかり。


「びっくりした」

「ん?」

「初めてアキラのワンピース姿を見たとき。あまりの愛らしさに」

「よせやい、恥ずかしいじゃないか」


 この1年でアキラは一層きれいになった。

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