第175話

 2月14日。

 チョコレートの日がやってきた。


 ちなみに何割くらいの学校がバレンタイン禁止だろうか?


 半数? 7割くらい?

 義理チョコ禁止! なんて声も毎年大きくなっているし……。


 でも、少子化、一生独身、恋愛経験ゼロの成人が問題になる日本なのだ。

 バレンタインを禁止されると女子と交流できるチャンスが一回減っちゃうよ! と男子は声高に叫んでもいい気がする。


「はい、チョコレート」

「ありがとう」


 ちなみに、うちの学校はバレンタインOKである。

 禁止にしないか? みたいな議論もあったらしいが、当時の生徒会長がなかなかの武闘派で、


『先生の中にだって生徒からチョコをもらっている人がいますよね⁉︎』

『そもそも、チョコをもらうために1年間努力する男子生徒もいるわけであって……』

『がんばる理由を奪うというのは、若者の未来を搾取さくしゅする行為に等しいのです!』


 という謎理論でお偉いさんを説き伏せたらしい。


「せんぱ〜い! 私のチョコ、もらってください!」

「うわぁ、ありがとう」


 あっさりと20個目のチョコを手に入れたのはアキラ。

 誕生日と同じように『不破くん特別ルール』が制定されており、


・手づくりチョコ禁止

・1人200円以下

・不破くんとの15秒以上の会話禁止

・握手、ボディタッチなども禁止


 の4つが生徒会長命令で出されている。


 さすが学園のアイドル。

 リョウは番犬として片時かたときも側を離れるわけにはいかない。


「去年は何個だっけ? 100? 200? 300を超えた? もはや、うちの学園の風物詩だよな。こりゃ、ホワイトデーが恐ろしいぜ」

「うっ……いうな……」


 不破くんにチョコを渡すと恋愛運がアップする、みたいな噂があるらしい。

 それで去年は何組かカップルが誕生したのだとか。


「頼む! 不破! 俺にも恋愛運をくれ!」

「はいはい……」


 男子からもチョコレートをもらう始末。

 放課後には400個を超えそうだな。


「はい、不破くん、ハッピーバレンタイン」

「うん、ありがとう」


 ニコニコ、ニコニコニコニコ……。

 朝から晩まで笑顔でいられるって、ホント才能だよな。


 休み時間、もらったチョコを整理していると、アンナがやってきた。


「はい、チョコレート、不破くんと宗像くんに」


 ラッキー。

 アキラと一緒にいると、おこぼれに預かれる。


 チョコの詰め合わせを片手にウロウロしているのはキョウカ。

 クラスの男子全員にフェアに配っている。


 小学校の時もいたな。

 あんな女の子。


『思いっきり義理チョコだけれども、1個はもらったぜ』

 と胸を張れるから、助かる人もいるのではないだろうか。


 昼休み、わざわざクラスを訪ねてきたのはトモエ理事長。

 包装紙にくるまれたチョコ、明らかに1,000円以上するやつをアキラの机に置く。


「あなたは学園の功労者ですから。これはちょっとしたご褒美よ」

「あ……ありがとうございます」


 男子生徒からは、

『あっ、ずるいぞ! 理事長からチョコをもらいやがって!』

 みたいな視線が注がれる。


 女子生徒たちも、

『理事長だけ予算オーバーしてずるい!』

 といいたそうな表情だ。


 そんな空気を察したアキラは、


「あの……理事長……こんなに高いチョコ、いただくわけには……」


 やんわり拒否のポーズを示した。


「あれは生徒会が定めた生徒のためのルールでしょう。私はここの管理責任者ですから。治外法権なのよ」

「ですが……」

「大人しく受け取りなさい。これは理事長命令よ」

「……はい」


 アキラの頭をナデナデしてから去っていった。

 これが金と権力を持つ大人の特権か。


「トモエ理事長、やっぱりアキラがお気に入りなのか?」

「絶対に遊んでいるよね……僕を困らせて」


 アキラ=男、を印象づけるための操作かな。


「それで? リョウくんは何個もらった?」

「雪染さんと神楽坂さんの2個だな」

「うわっ、少ない……かわいそう」

「お前はいま、全国の男子生徒500万人を敵に回した」

「ぷっぷ……リョウくんも僕にチョコレートを渡してみるかい? 恋愛運がアップして、かわいい彼女ができるかもよ」

「お前なぁ……」


 学校にいると、アキラが女だってことを、時々忘れそうになる。


 そして放課後。

 リョウはとうとう3つ目のチョコを手に入れる。


「宗像先輩、冬休みは色々とお世話になりました」


 ミタケ妹のユズリハちゃん。

 まあ、義理チョコだけれども。


「不破先輩は、もうお腹いっぱいかもしれませんが、よろしければ受け取ってください」


 おっ! やった!

 リョウ ⇨ アキラの順に渡された。

 ある意味、リョウが主で、アキラがオマケと解釈かいしゃくできないだろうか。


 そのことをアキラに伝えると、


「ユズリハさんは優しいから、釣果ちょうかの少ないリョウくんに気をつかったんだよ」


 と素っ気なく返された。

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