第248話
リョウの話を聞くなり、開口一番、
「ダメだ」
不破パパはあっさり拒否した。
外科医らしいスパッとした物言いだった。
「なんで⁉︎ なんで⁉︎ なんで⁉︎」
猛抗議したのはアキラ。
子どもみたいに台パンしている。
「君たちは若い。まだ20歳にもなっていない。知らないことが多すぎる」
「知らないことって何だよ⁉︎」
ふたたびアキラ。
「男女というのは、付き合っている最中が、もっとも
「ひどいわ、パパ」
ぷんぷん怒ったのは不破ママ。
暗にディスられたと思ったらしい。
「ユキは黙っていなさい」
ユキというのは不破ママの名前である。
「同棲は認めない、といっているわけじゃない。せめて20歳になるまで我慢しなさい、といっている」
「ヤダヤダヤダヤダ! リョウくんと一緒がいい! あと、ニャンコ飼いたい!」
「見たか、宗像くん。この子のワガママっぷりを」
外にいる時より、家にいる時の方が、5倍くらいワガママだ、と不破パパは一刀両断。
「やっぱり引っ越したい。3ヶ月に1回くらい言い出すのがアキラという女の子だ。熱しやすくて冷めやすい。
「ぐるるるるるる……」
アキラが犬みたいに
「あと、妊娠の危険性だ。そういうつもりがなくても、妊娠してしまうカップルは多い。うちの産婦人科に毎日のように駆け込んでくる。娘もそうなってしまうのは、医者の1人として、いかにも虚しい気がする」
「まあっ⁉︎」
センシティブな話題だったので、不破ママが悲鳴を上げた。
「そもそも、だ」
これから物語の核心に斬り込むように、不破パパは声のトーンを落とす。
「アキラがどういう理由で前の学校を辞めたのか? 宗像くんは教えてもらっていないだろう?」
「ええ、まあ……」
「ちょっと! パパ!」
「アキラは黙りなさい」
本人がムキになるってことは、後ろめたい事情があるのだろう。
「マリー・アントワネットに匹敵するといったが、撤回だ。むしろ、トゥーランドット姫だ。『カラフ王子と中国の王女の物語』のあらすじは知っているかい? 自分に惚れてきた男を、たくさん処刑してきたトゥーランドット姫……」
前の高校にいたとき。
アキラはモテにモテまくった。
15歳独特の色気みたいなやつをプンプンさせて、周りにたくさんの男を
男装してパワーを抑えた現在でもモテるのだ。
フルパワーのアキラが無双していたのは想像にかたくない。
「調子に乗りすぎた天罰というべきか……」
アキラがうっかり転んだ。
その衝撃でおしっこをもらした。
これは大変だ。
学園のプリンセスが粗相してしまった。
証拠隠滅せねば!
そういって立ち上がったのが、当時のアキラ姫親衛隊である。
床にこぼれたアキラの粗相をぺろぺろして、忠誠心を示したのである。
「ちっが〜う! あれは僕の人気に嫉妬した女子のデマで!」
被告人アキラが
「しかし、アキラが粗相したのと、6人の男子生徒が退学処分になったのは真実だ」
「ああ〜! もう〜!」
アキラは髪の毛をクシャクシャ。
この事件がトラウマとなり、しばらく女の子の格好ができなくなった。
それが男装アキラ誕生の秘話である。
「これも氷山の一角だ。アキラは身近な男の子をたくさん不幸にしてきた。現代版、トゥーランドット姫というわけだ。宗像くんは奇跡的に2年間も無事だったらしいが、この先もアキラの体質に巻き込まれない保証はない。君がダッタン国の王子ならいい。ペルシア国の王子なら身を滅ぼす」
クイズに正解してトゥーランドット姫と結婚したのがダッタンの王子。
一方、ペルシアの王子はクイズに正解できず、広場で処刑された。
氷のように冷たいが、周囲を焼き焦がす。
現代版トゥーランドット姫は、たった2ヶ月半で6人の男子を退学させている。
「お父さんからアキラに質問したい。どうして重大な秘密を2年間も宗像くんに内緒にしてきたんだ? いずれ発覚することだろう。遅ければ遅いほど、宗像くんが受けるショックは大きくなると思わなかったのかい?」
「ッ……⁉︎」
「男装している現在だって、万が一があれば、退学を迫られるのは宗像くんの方なんだぞ」
「それは……」
今度はアキラが沈黙する番だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます