第39話

 池袋のショッピングモールにて。


「進化論ってあるじゃん」


 アキラが学術的なことを口走った。


「ダーウィン博士の?」

「そうそう」


 ちょうどペットショップがあり、生後4ヶ月くらいのニャンコがお昼寝している。


「ヒトとネコが分岐したのは、1億年くらい前だから……」


 恐竜がゴロゴロいた時代か。


「僕の祖先を1億年くらいたどれば、このニャンコとの共通祖先が見つかる。つまり、僕とニャンコは、ずぅ〜〜〜と遠い血縁者といえる」

「えっ……マジで⁉︎」

「たぶん……。そして我々がイヌやネコを好きなのは、ずぅ〜〜〜と昔は助けあって暮らす兄弟だったからなんだよ」


 アキラって……。

 時おり、天才的なことを思いつくな。


「その想像力、すげえ。俺にも分けてほしいぜ」

「むふふ〜」


 アニメ・コミック・ゲームの専門店へとやってきた。

 1階から7階までが売り場スペースとなっており、最上階がイベント会場となっている。


 気になるコーナーをぐるりと一周してみた。


「このマンガの最新刊、まだ買ってないな」


 リョウは何冊か手にとる。


「どうした、アキラ?」

「いや……」


 アキラがじいっと観察するのは、平積みされたマンガ本の数々。


「こうしてみると、リョウくんの絵、かなり上手いなって」

「そう思うか?」

「リョウくんよりテキトーな人、たくさんいるから。リョウくんは間違いなく逸材だよ。プロで通用する水準。あ、これ、お世辞じゃないから」


 やべぇ。

 死ぬほど嬉しい。


「まあ、あれだ。俺は背景とか未熟だし。ストーリー構成は甘いし。キャラの描き分けだって弱いし」


 口では否定しつつも……。


「でも、画力って、シンガーにとっての歌唱力と同じくらい大切だよね」


 リョウの表情はデレデレしまくり。


 そっか、そっか。

 アキラ、見るところは見ているのか。


「だからさ、三年以内にはヒット作を世に送り出して……」


 アキラが手にしたのは恋愛マンガ。

『舞台化決定!』の帯がついている。


「チャラチャラした噛ませ犬の男性キャラを、トオルくんに演じてもらおう」

「アキラって、見かけによらず野心家で、ちょっと腹黒いよな」

「腹黒いって、さびしがり屋の裏返しなんだよ」

「なるほど」


 池袋で買い物をすませたら秋葉原へ。

 フィギュア館とか、アクセサリー屋をめぐった。

 

「フィギュアって、同じようなサイズでも、値段が10倍くらい違っていたりするんだね」

「お手頃なフィギュアは、ゲーセン用とかに大量生産されたプライズ品だな。高いフィギュアは、一個一個手づくりされたガレージキットだ」

「おおっ! リョウくんは何でも知っている!」

「それは褒めすぎだ」


 ガチャポンの専門店に入ってみた。


 流行のアニメから、懐かしい名作まで。

 様々なガチャポンが400台くらい並んでいる。


 これをやろうよ!

 そういってアキラが指さしたのは……。


『世界の猫コレクション』

 一回200円なり。


「ガチャガチャやるの、もしかしたら小学生の時以来かも」

「両替しねえと」


 まずはリョウから挑戦することに。


 特にこれが欲しい!

 という猫種はない。

 白猫でも、黒猫でも、何でも来いという気分だが……。


 うおぉぉぉぉ!

 チェシャ猫が出てきた!


 猫なんだけれども猫じゃねえ。

 あと人間みたいにニヤニヤ笑っている。


「不思議の国のアリスだ!」


 アキラは大興奮。


「なんか笑い声が聞こえてきそうだな」

「いいな〜、いいな〜」

「欲しけりゃやるぞ」

「ううん」


 アキラも200円を投入。

 ガチャガチャ回してみると……。


 ポンッ!

 またチェシャ猫が出てきた。


「やったね!」

「大した引きだ。欲しいやつが当たって良かったな」

「それもあるけれども……」


 チェシャ猫とチェシャ猫を並べてみる。


「おそろいのアイテムが手に入りました!」

「それって、まさか……」

「僕のやりたいことリスト、コンプリートできました!」


 パチパチパチと拍手。

 からのハイタッチ。


「僕とリョウくん、運命の糸みたいなやつで結ばれているのかな?」

「……………………」

「あれ? もしかして、いま僕のこと、かわいいと思った?」

「別に……思っちゃいねえよ!」

「むぅ〜、ちょっと残念」

「ほら、次いくぞ!」


 運命の糸とか……。

 男に向かって気安くいうなよ!


「一日があっという間だね」

「まあ、刺激的で楽しいから」

「半分は僕のおかげかな?」

「うっ……否定はしない」

「やったね!」


 アキラが腹黒い笑みを向けてきた。


 くそっ……。

 かわいい……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る