第228話

 学内掲示板の前にて。


「なんだよ、宗像と同じクラスかよ」

「それは俺のセリフだ、コノヤロ〜」


 新しいクラス分けが発表されていた。


 リョウたちの学年は8クラス。

 シンプルに文系が4クラス、理系が4クラスとなっている。


 いちおう特別進学コースもある。

 その場合、東京の本校へ通うので、転入の手続きをしないといけない。


(リョウの学力だと書類で弾かれる。アキラ、キョウカくらいの学力があれば、本校へ移ることは可能)


「よかったな、キング。雪染さんと一緒で。ラブラブできるな」

「うるせえ、宗像だって、不破と一緒じゃねえか」

「俺たちは運命のくさりで結ばれているんだよ」

「男同士で気持ち悪い」


 相変わらず口は悪いけれども、ミタケの頬はゆるみまくり。

 そりゃ、嬉しいよな、いつでも恋人を観察できると。


「ありゃ〜。今年度も宗像のクラスメイトかよ〜」


 教室に入ったとき、お調子者のキョウカに絡まれた。


「1年からずっと一緒だな、神楽坂さん。目の保養になるから助かるよ」

「うわぁ〜、きもっ! 宗像、きもっ! 安定のキモさだ!」

「どういたしまして。そして、毒舌をありがとう」

「あっはっは! どしたん、宗像、変なの!」


 まったく、白々しい女だ。

 自分でクラス分けを操作したくせに。


「不破キュンとも一緒のクラスだ〜。奇遇ですな〜」

「よろしくね、神楽坂さん」


 アキラは王子様スマイルを返している。


「不破キュン、もしかして筋トレした?」

「わかる? 僕ってさ、虚弱体質だから。スポーツ選手みたいな肉体美に憧れていて」

「それって、体脂肪率3%みたいなやつ?」

「その一歩手前。ダビデ像くらい」


 リョウは、巨匠ミケランジェロの傑作を思い出す。


「不破キュン、以前にも増して凛々りりしいね〜」

「そういう神楽坂さんも、この春、より一層きれいになったね」

「だったら、付き合おうぜ、私たち。いつでもウェルカムだよ」

「それは無理。友人の距離がいい」

「にゃはは〜! 振られちゃいました〜!」


 冗談でアキラに告るなんて、キョウカは根っからのエンターテイナーだな。


「おはよ〜」


 元気よく登校してきたのはアンナ。

 知り合いとあいさつを交わしたあと、こっちへ向かってくる。


「あ、お馴染みのメンバーだ。今年度も一緒で嬉しいな」

「よろしくね、雪染さん」


 とアキラ。


「ヒマな日に映画観にいこ〜」


 とキョウカ。


「受験勉強を一緒にがんばろうぜ」


 とリョウが締めたとき、隣にいるキョウカが、真面目かよ、と冷やかしてくる。


 アンナは優しい子だから、一緒にがんばろ、と笑ってくれた。

 こんなに気立てのいい女の子がミタケの彼女だなんて、学校の七不思議の一つである。


 春休みは何してた? みたいな話題になった。


 リョウはひたすらマンガ。

 めぼしい成果はないけれども。


 アキラは読書三昧どくしょざんまいの日々だったと答えている。

 演劇をやっていることは、学校では秘密なのだ。


 アンナは吹奏楽の練習らしい。

 もうすぐコンクールがあるから、ほぼ毎日が活動日。


 そしてキョウカ。


「えっ? 私? そうだな〜、北海道のスキーとか、下呂げろの温泉とか、小田原おだわらの桜祭りとか……」


 さすがお金持ち。

 トオル様と一緒がいい〜! となげきながら、家族に連れ回されたのだろう。


 チャイムが鳴り、新しい担任の先生が入ってきた。

 世界史を担当している男性で、とっつきやすくて人気の教師だ。


「初めての人は初めまして。2回目の人はお久しぶり。今日から君たちの担任を1年間やらせていただく石山です」


 3年生は勝負の年。

 みたいな話が出るのかと思いきや……。


「一度きりの高校生活、エンジョイしようぜ」


 そんな話に終始して、流行りのアニメとか、芸能人のゴシップネタとか、教師らしからぬ話がバンバン飛び出した。


「ちなみに、先生が君たちの年齢のとき、そんなに受験勉強しなかったぞ。そうだな、1日1時間か2時間だ」


 思いがけぬ告白に、生徒たちは注目する。


「ほどほどに勉強しておけば、教師くらいにはなれる。それよりも、10代の内にしかできないことをやりましょう。別に、人間、勉強するために生まれてきたのではない。まあ、高校は勉強する場所だけどな。あっはっは」


 良い先生の定義からは外れるだろうが、良い大人なんだな、というのは伝わってきた。

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