第163話

 動物園ってコスパがいいな。

 数百円くらいだし、わりと静かだし。


 歩くのが苦手! 動物の匂いがきらい!

 という女子にはキツいだろうが……。


 観察している感じだと、アキラもアンナも楽しそう。


「おい、キング、ゴリラだぞ。お前が本気出したら、勝てるんじゃないか」

「あいつら、握力いくらあるんだ?」

「調べてみるか……」


 500kgっぽい。


「死ぬわ。余裕で骨を折られるわ」

「1日でいいから握力500kgほしいな。スイカを素手で割ったり、雑誌を思いっきり引きちぎりたい。あと、握力はかるマシンで、測定不能、という表示を出したい」

「宗像って、意外と子どもだな」

「悪いかよ」

「いや……別に……」


 ミタケとも会話がはずむ。

 なんか変な気分だ。


「そういや昔、宗像くんと須王くんがケンカしたことあったよね。学校の廊下のところで」


 アンナがくるりと振り返りながらいう。


「あった、あった。キングのやっかみ。アキラに絡んでくるから。あれもキッカケは妹ちゃんだっけ?」

「うるせえな……挑発してきたのも、頭突きしてきたのも、宗像の方だろうが」

「おでこ殴られたけれども、あまり痛くなかったぜ」

「はぁ⁉︎ あれは左手で殴ったから!」

「ケッケッケ」

「この石頭ヤローめ」


 仲良しのクラスメイト3人を、アキラは姉みたいに見守っている。


「リョウは、本当に不破くんのことが好きなのですね」


 おいおいおい⁉︎

 とんでもない質問してくるな。


「そうなんですよ! 宗像くんと不破くん、ラブラブなのです! 体育倉庫に閉じ込められたり、体育祭のときにお姫様抱っこしたり! 運命の糸みたいなもので結ばれているのです!」


 アンナのテンションは上がりまくり。


「あらあら、男同士なのに、ちょっと不健全じゃないですか」


 ゲホッ! ゲホッ!

 リョウは激しくむせる。


 カフェテリアがあった。

 ちょっと休憩していこうぜ、と提案してみる。


「みんなでソフトクリームを食べましょう」


 とアキラ。


「はぁ⁉︎ 冬なのにソフトクリーム⁉︎」

「中々おいしいですよ。冬に食べるソフトクリームも」


 手をグイグイと引かれる。


 けっきょく、2個買った。

 リョウとアキラで1個をシェアする。

 すると必然、残りの1個をアンナとミタケがシェアする。


「ほらほら、リョウ、お口を開けてください。食べさせてあげますから」


 普通にうまい。

 かなり恥ずかしいけれども。


「……」

「…………」


 完全にフリーズしているのはアンナとミタケ。

 いつまでも手をつけないから、ソフトクリームの先っぽが溶けそう。


「雪染さん、俺、スプーンもう一本とってくるわ」

「うん、なんか……ごめん」


 二人とも初心うぶだな。


「ほらほら、今度はリョウが私に食べさせてください」

「はいよ」


 ペットに給餌きゅうじするみたいに、アキラに食べてあげる。


 ぺろり。

 唇をなめる仕草しぐさが色っぽい。


「あの〜、ふぅ子さんは、レンタル彼女ということは、現在、お付き合いされている方がいないということですか?」

「いいえ、いますよ」

「なんと⁉︎」

「カレも承知で、こういう仕事をやっているのです」

「あわわわわっ……」


 アンナは泡を食って手をバタバタさせる。


「ですよね、リョウ」

「そういう発言は、レンタル彼女的に、NGじゃないっすかね」

「おやおや、私のカレに嫉妬しっとですか。リョウは特別なお客さんですから、プライベートを打ち明けたというのに」


 アキラがいたずらっぽい笑みを向けてきたので、リョウはぷいっと顔をそらした。


 私のカレって……。

 俺じゃねえか……。


「アンナさんも恋人をつくりましょう。仮の恋人もいいですが、やっぱり本物の恋人が一番です」

「ですが、これから受験とかを意識する時期ですし……」

「そんなことをいってると、一生チャンスを逃しますよ。ほら、来月はバレンタインじゃないですか。バレンタインは毎年ありますが、17歳のバレンタインは一生に一度きりですし」

「うぅ……たしかに」

「恋しないともったいないですよ。アンナさんは性格が良いのですから」

「そうですかね」

「心配でしたら、手相てそうを見てあげましょう。私の特技なのです」


 アンナはごくりとのどを鳴らして、利き手をテーブルの上に置いた。


「吹奏楽部でしたっけ。たくさん練習しているのですね」

「はい、トランペットを担当しています。手が痛いのも悩みですが、それ以上に唇の荒れがひどくて……」


 アンナはリップクリームを取り出す。

 以前にミタケがプレゼントしたやつ。


「須王くんからもらったリップクリーム、とても重宝しているよ」

「おう……そういってもらえると安心だ」


 よかったな、ミタケ。

 お前、あの時、かなり悩んでいたもんな。


 そして気になるアンナの手相は……。


「これは⁉︎」

「もしかして、危ない手相なのですか⁉︎」

「いえ、うつくしい手相ですね。恋愛に関する相というのは、この線と、この線と、この線を見て総合的に判断するのですが……」

「ふむふむ」

「ほら、線にギザギザがなくて、きれいじゃないですか」


 アキラの説明を、アンナは熱心に聞いていた。

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