第298話

 購買部の自販機で、リョウは紙パックの牛乳を買った。


『当校の試験日程について』

 そんな張り紙を見つける。


 高校受験のため、校舎を受験生に開放するから、下記の日程は立ち入れません、みたいな内容だった。

 教室や廊下をきれいにしましょう、とも。


「ただいま〜」


 アキラがココアの準備をしており、紙コップが3つ並んでいる。


「あれ? 3人分なんだ」

「そうそう」


 コンコンと部室をノックする音。

 入ってきたのは首にマフラーを巻いたキョウカだった。


「にゃっはろ〜」

「にゃっはろ〜」


 アキラとあいさつを交わす。


「うわっ⁉︎ さむさむ! 暖房をガンガンつければいいのに! もっと室温を上げようぜ!」


 キョウカは空いている席に座って、リモコンのボタンを連打した。


 すぐにモーターがフル稼働。

 サウナ室みたいにポカポカの風が出てくる。


「省エネなんだよ。ここは俺たち2人しか利用しない空間だし。たくさん電気をつかったら、理事長にバレて怒られてしまう」

「へぇ〜。日本人らしい環境意識の高さだね〜」

「神楽坂さんも日本人だろうが」

「まあね〜」


 あとで怒られるの、部長のリョウなんだけどな。


「わ〜い! あったか〜い!」


 アキラが楽しそうだから、1日くらい許してもらうか。


「それで? 神楽坂さん、こんなところで道草を食ってていいの? お抱えのエリート家庭教師とやらが、家で待ってんじゃねえの?」

「そうそう、今日の本題」


 キョウカがピシッと指を立てる。


「今年のクリスマスパーティー、不破キュンの家はやるよね?」

「よく知っているね。うちは父と兄が忙しいから、日程を調整中だけれども、どこかでやる予定だよ。24日よりは前になるかな」


 特に忙しいのはトオル。

 ファンとの交流イベントとその準備があるらしい。


「じゃあさ、じゃあさ、私も参加していい?」

「もちろん。むしろ、神楽坂さんって都合がつくの? ご実家でもクリスマスパーティーやるよね?」

「平気平気、死んでも時間をつくるから」


 アキラは陽気にうなずき、キョウカは鼻歌を鳴らしている。


「楽しみだな〜。クリスマスパーティー。昔から憧れていたんだ〜」

「おいおい、神楽坂さん。お金持ちなんだから、毎年盛大なパーティーを開いているだろう」

「うちはね〜、お客さんとか普段は会わない親戚とか、たくさんくるんだよ。そういうのが、堅苦しくて嫌なんだ。アットホームなパーティーに憧れているんだ」

「いろいろあるんだな。さすがブルジョワ」

「トオル様に会えるの、楽しみ〜」


 キョウカは乙女の顔になってデレデレする。


「というわけだ、リョウくん。日程が決まったらシェアするから、君もクリスマスパーティーに参加してくれたまえ」

「りょ〜かい。楽しみにしておくよ」


 レンも来るのか訊いてみた。

 仕事が忙しすぎて無理とのこと。


 売れっ子だしな。

 イラスト集とか、ファンブックとか、仕事は無限に降ってくるだろう。


 アキラの家は純粋に楽しみ。

 最後に入ったの、アキラが風邪を引いて、お見舞いに出かけたときかな。


「リョウくんは勉強をがんばりたまえ。努力すれば努力するほど、そのあとに食べるケーキがおいしくなる」

「へいへい」


 キョウカを交えて、久しぶりに3人で語らった。


「4人で別荘へ出かけてから、もう4ヶ月が経つのか」


 リョウがいう。


「えぇ〜、はや〜い」

「修学旅行なんか、1年以上前だよ」

「あったな。札幌の夜が」

「私と宗像、ホテルから抜け出したよね〜」

「リョウくんと夜の路上で会ったね〜」

「あれは冒険だった。バレたら停学もありえるからな」

「でも、楽しかったな〜。あの日のことを思い出すだけで、私は幸せだよ〜」

「若さゆえの好奇心ってやつだよね」

「神楽坂さん、乙女だよな」

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