第299話

 クリスマスパーティーの日程が決まった。

 アキラから送られてきたメッセージに、PDF形式の『招待状』が添付されていたのである。


『リョウくんへ』

『プレゼント、期待しています』


 アキラの本音を目にして、思わず苦笑いしちゃう。


 プレゼントはすでに考えている。

 まずはブックマーカー、アキラの好きな猫デザインのやつ。


 オシャレなやつを見つけた。

 首にリボンを巻いた猫が本を読んでいる絵柄のやつ。


 念のためアキラへメッセージを送って、


『ブックマーカーのデザイン、すでにアキラが持っているやつと被ったら嫌だから、コレクションの画像をちょうだい』


 とお願いしたところ、


『じゃ〜ん! 僕のコレクション一覧だよ!』


 たくさん写真が送られてきた。

 重複はなし、よってプレゼントの1個目は決定。


 問題なのは2個目のプレゼント。

 直筆のお手紙の方。


 困ったぞ。

 リョウは男だから、プライベートで手紙を書くなんて経験、皆無なのである。


 どうしよう……。

 文章力も空っぽだし。


 拝啓はいけい、不破アキラ様。

 1行目を書いて、ペンが5分くらい止まる。


 様って変かな?

 アキラさんかな?

 どっちを選んでも違和感しかない。

 こういう時、アキラならスラスラ書き上げるんだろうな。


『俺たちが出会った日のことを覚えていますか?』


 あれは2年前の夏。

 転校生向けのオリエンテーションがあって、夏休みの学校へやってきた。


 最初、アキラはツンツンしていた。

 でも、いったん打ち解けると、趣味の話とかを聞かせてくれて、2人の家が近いこともあり、いつも一緒にいるようになった。


『2人で同じ部活に入ろうよ』


 アキラから提案してくれたときは嬉しかった。

 2学期がはじまって早々、アキラは人気者になり、周りの女子たちがキャーキャー騒ぐようになる。


 何をやっても目立つアキラは、男子からウザ絡みされるシーンもあった。

 こいつは下ネタが苦手だな、というのをリョウは理解しており、ガードしてあげた記憶がある。


 懐かしい。

 アキラのこと、あの頃は美男子だと思っていた。

 モテるのだけれども、かたくなに恋人をつくらない、ちょっと気取った男の子。


『これからもよろしくな』


 その一言で手紙をしめる。

 かなり砕けた文章になったが、かえってリョウらしいといえる。


 それから猫のイラストを描いていく。


 デザイン、どうしよっか。

 普通の猫イラストなら、過去に何回もアキラにプレゼントしてきた。

 特別感があって、クリスマスに相応ふさわしい構図。


 ピコン! とアイディアが閃く。


 お題は『猫たちのクリスマスパーティー』。

 5匹くらいの猫がいて、長テーブルを囲んでいる。

 真ん中に並んでいる料理は、魚の形をしたパイとか、猫のシルエットのケーキとか。


 で、ここから先がリョウの腕の見せどころ。

 この5匹に、リョウ、アキラ、キョウカ、アンナ、ミタケの特徴を投影していく。

 かなりのテクニックが求められる表現方法なのだけれども、図柄が浮かんじゃったから書きたい欲が止まらなくなる。


 クリエイターがもっともやる気になる瞬間。

 それはポロッと秀逸なアイディアが生まれたときなのだ。


 キョウカはすらっとしたベンガルかな。

 アンナは雪みたいな毛色のペルシャ。

 ミタケは強そうなソマリにしよう。


 アキラはやっぱり王道のアメショ。

 リョウは三毛猫にしておこう。


「こいつらを軽く擬人化して……」


 手紙を受け取ったアキラが嬉しそうにしてくれる。

 そのシーンを想像すると、不思議と筆も軽くなる。

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