第29話

 アンナを説得するのは苦労した。


「ええと……つまり……不破くんを傷物にしたのは宗像くんじゃないと?」

「そもそも僕は傷物じゃないよ」


 アキラが王子様スマイルを返す。


「ほら、雪染さん、アキラ本人がそういっている。つまり俺は無罪なんだ。今回ばかりは濡れ衣だよ」

「でもなぁ〜」


 アンナは食い下がってくる。


「不破くん、ちょっと泣いていたよ。これはどう説明するのかな」


 ぐはっ……。

 痛いところを突かれた。


「それは……」


 ダメだ。

 言い訳が思いつかない。


「あれは僕の目にゴミが入っちゃって」


 少女マンガの主人公かよ!


「あ、そうなんだ」


 アンナもあっさり信じた!


 ロミオ補正。

 完全復活したらしい。


「でも、不用意に体育倉庫に入ったらダメだよ! 私だから良かったけれども、他の人に発見されていたら、学校新聞に載るくらいの特大スクープなんだから! それくらい周りの女子から注目されているの!」

「心配してくれてありがとう、雪染さん」

「恩に着る。マジで」


 三人は購買部へ向かった。


「ささやかなお礼ということで」


 ジュースとお菓子を買ってあげる。


「あ〜あ、雪染さんで助かったぜ。ほんと災難だよ」

「そうかな」

「ん?」

「僕は悪くなかったな。良いものが見られて。良いセリフが聞けて」

「え〜と……」


 リョウはその意味を理解しかねる。


「なんでもない! さっさと帰ろう!」

「おう、手紙の犯人を見つけたら、俺がとっちめてやる」


 そして翌朝。

 アキラが下駄箱を開けると……。


 また封筒が出てきた。


 昨日と一緒のデザイン。

 つまり同一犯。


「第二弾か」

「うん」


 案の定というべきか……。

 新聞を切り貼りするスタイルで、


『不破アキラ、オマエノ正体ハ・・・』


 というメッセージが出てくる。


「こんな嫌がらせに屈するものか」


 アキラが強い口調でいう。


「僕だって辛い思いは何回も経験してきた。こんなの、物の数じゃない」

「一晩でたくましく成長したな。さすがアキラだ」

「半分はリョウくんのおかげ」


 教室へ向かう。

 眠そうなミタケに声をかけた。


「キング、昨日は悪かったな。これ、お詫びのしるしだ」

「なんだよ、あらたまって」


 ミタケは警戒しながら、リョウが差し出したお菓子、ひまわりチョコを受けとる。


「ひまわりの種?」

「頭が良くなるらしいぞ」

「けっ……余計なお世話だぜ」


 訊きたいことは一つ。


「昨日、俺たちとぶつかったあと、誰かとすれ違わなかったか」

「はぁ? なんだよ、急に」

「大切なことなんだ」


 実は落とし物をしちゃって……。

 その人物が持っていったかもしれない。


「へぇ……」


 ミタケは納得してくれた。


「悪いけどよ、あんまり覚えてないぜ」

「すれ違った人はいたんだな」

「まあな」

「覚えている範囲で教えてくれ。せめて男子か女子かだけでも。あの場所なら、基本、二年生しかいないはずだ」


 いくつか名前が出てくる。


「ありがとう、マジで助かる」

「おう」


 そして放課後の部室。


「手紙の差出人の目星はついた」

「僕たちを尾行していた生徒と同一人物だと?」

「複数犯じゃなければ……。でも、動機がさっぱり分からない」

「そうだね。僕に文句があるのなら、直接いっても良さそうだけれども」


 ああでもない。

 こうでもない。

 そんな推理で盛り上がっていると……。


『学校施設に残っている生徒にお知らせします』


 校内放送が流れてきた。

 リョウとアキラはスピーカーを注視する。


『いまから名前を読み上げる生徒は、至急、理事長室まで来てください』


 きっとアレだ。

 警察のお世話になった生徒。

 だったら自分たちは無関係のはず。


 そう考えて油断した、数秒後。


『宗像リョウ』

『不破アキラ』

 

 背筋にゾクッと緊張が走った。


「なにか悪いことやったっけ⁉︎」

「いいや⁉︎ やってない!」


 部室に鍵をかけて飛び出した。

 廊下を走ってはいけない、は校則なのだが、ゆっくり歩ける気分ではなかった。


『繰り返します。いまから名前を読み上げる生徒は、至急、理事長室まで来てください』


 まるで犯罪者。

 全校のさらし者。


「ゲイ疑惑で通報されたのか⁉︎ 俺がアキラを手籠てごめにしたという虚偽の報告とか⁉︎」

「いや……ホント……それなら冗談で終わる話だよ!」

「おのれ、ストーカーの仕業なら許せん!」


 理事長室が見えてきた。


「いくぞ」

「うん」


 コンコンと厚い扉をノック。

 どうぞ、開いてます、と中から声がする。


「失礼します。校内放送を聞いて駆けつけました、二年の宗像リョウです」

「同じく二年の不破アキラです」


 理事長の椅子がくるりと反転した。


「急に呼び出して申し訳ないね」

「なっ⁉︎」

「あなたは⁉︎」


 そこに座っていたのは、二人がよく知っている顔。


「にゃはは〜!」


 遊び人みたいな笑い声。


「前にも教えただろう! 偉そうなのではない! 実際に偉いのだ!」


 おそらく手紙の差出人。

 そして体育倉庫に細工した犯人。


「まあまあ、そう緊張しなさんな」


 なんと神楽坂キョウカが座っていた。

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