第162話

 頃合いをみて、リョウたちは物陰から飛び出した。


「ごめん、ごめん、トラブルがあって遅れてしまった」

「おはようございます。不破アキラさんの代わりにお声がけいただきました、ふぅ子です。今日は一日、よろしくお願いします」


 アキラが愛想あいそよくおじぎする。


「お久しぶりです。夏休みの遊園地で会って以来ですね」


 とアンナ。

 その手にはミタケからもらったカイロが大切そうに握られている。


「今年に入ってレンタル彼女2回目とか、宗像って、金に糸目をつけないよな。金銭感覚、大丈夫なのかよ」

「うるせえ、シスコン野郎。ふぅ子さんはマンガのための投資なんだよ」

「はぁ⁉︎ シスコン⁉︎」


 リョウが鼻で笑うと、ミタケはにらみ返してきた。


「こらこら、2人とも、今日は仲良くね。ほら、和解の握手」

「別にケンカはしちゃいないけれども……」


 アンナに仲裁されたので、仕方なく握手しておいた。

 

 さっそくチケットを4枚買う。

 いざ、にぎやかな動物園の中へ。


「アンナさん、ミタケくん、今日はそういう呼び方でいいですかね?」


 アキラが園内MAPを手渡しながらいう。


「はい、お願いします」

「俺は、別に、なんでもいいです」


 アキラが目くばせしてきた。

 予定通り、作戦をスタートさせるよ、と。


「ほらほら、リョウ、あそこにパンダがいますよ。見にいきましょう」

「そうっすね〜」


 まずはアンナとミタケをパンダ舎の前まで誘導する。

 お客さんを夢中にさせているのはジャイアントパンダの子ども。


「3人の写真を撮ってあげますから。並んでください」


 アキラが携帯を取り出しながらいう。


「え〜と、こんな感じですかね?」

「もっと近寄ってください。特にアンナさんとミタケくん」

「このくらい……ですか?」

「もう一歩。周りのお客さんが写っちゃいますから」

「……はい」

「……おう」


 パシャリと密着ショットをおさめた。


「もう一枚撮りますよ〜」


 撮影が終わるころには、アンナもミタケも頬をリンゴ色に染めまくり。


「キング、小学生じゃないんだから写真くらいで照れるなよ」

「うるせえ……マンガ野郎」


 リョウはケッケッケと笑っておいた。

 次はゾウのエリアへ。


「今度は俺が撮るから。キングが真ん中で、その両脇に雪染さんとふぅ子さんが並んで」


 ここでも2枚撮っておいた。


「いいな、キング、両手に花みたいで。うらやましいぜ」

「バカにしやがって」


 よしよし。

 心拍数が上がっているのが丸わかり。

 アンナもしきりに前髪をいじくっており、乙女チックな表情になっている。


「ふと、気になったのですけれども……」


 アキラが足を止めながらいう。


「お二人はお付き合いされているのですか?」

「えっ⁉︎」

「はぁ⁉︎」

「あら? ただのクラスメイトでしたか?」

「そうです」

「まあ……」

「とってもお似合いのお二人だと思います。リョウの共通の友人ですし。こうして冬休みに集まる仲ですし。ちなみに、交際中の方はおりますか?」

「いないです」

「俺も……」


 とってもお似合いの二人って……。

 結婚相談所のスタッフかよ。


 アキラの攻勢はまだ終わらない。


 次の小技。

『No.17 とにかくターゲットをめまくる』


「ミタケくんのあだ名、キングですか。格好いいですね。やっぱり、クラスの中では仕切り役なのですか?」

「いえ……キングっていうのは……キングコングが元ネタというか……俺、昔からバスケットをやっているので、体育とか球技大会が得意で、そっから呼ばれるようになった感じです」

「へぇ、バスケット一筋ですか。ステキだと思いませんか、ねえ、雪染さん」

「はぃ⁉︎」


 急に話を振られたアンナがドキッとしている。


「そうですね! 須王くん、本当に頼り甲斐があるんです! 修学旅行の時なんか……」

「時なんか?」

「あぅ……私が困っていたら、体を張って助けてくれて……そのせいで須王くんは少なくないダメージを受けたのですが……」

「アメコミのヒーローみたいに?」

「……はい」


 いやん!

 格好いい!

 アキラが露骨ろこつに持ち上げる。


「ロマンチックなエピソードだと思いませんか、リョウ!」

「キングのこと、正直、すげぇて思いましたね」


 リョウもニヤニヤする。


「アンナさんはムードメーカーとか、愛されキャラって感じですよね。よく学級委員とか、体育祭の実行委員に選ばれませんか?」

「ええ、そうなのです。推薦すいせんされたら、断れなくて……」

「なるほど、献身的けんしんてきなタイプなのですね。リョウも、女子の中ではアンナさんが一番接しやすいと、電車の中で話していましたよ」

「そんな……そんな……恥ずかしくて照れちゃうな」

「ねえ? ミタケくんもそう思いませんか?」

「そりゃ、まあ……」


 ミタケはほほをポリポリしたあと、


「俺は元々、女子と会話するのが苦手なのですが、雪染さんとなら普通に話せるというか……なんか安心するっていうか」


 アキラに向かって本音を吐露とろした。


 それを聞いたアンナの口元がふっとゆるむのを、リョウは見逃さなかった。

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