第111話
「あらためて自己紹介しておきます」
氷室ショースケと印字された名刺が2枚。
リョウたちの前に置かれた。
「氷室です。これから無量カナタ先生と一緒に、連載を目指していきます。新人賞をとる人なら知っていると思うけれども、おもしろいマンガを描くのは大変です。抜きん出た存在になるのは、もっと大変です。それでも俺は、無量カナタ先生なら、将来、うちの看板マンガ家になる可能性があると思ったので、こうしてお呼びしたわけです」
まず契約書を渡された。
賞金の払い込みについて。
リョウは未成年だから、親のサインが必要となる。
続いて評価シートを見せられた。
キャラクター性、ストーリー性、画力、構成力、オリジナリティの5点について。
7名の編集者が採点している。
【銀賞】
無量カナタ作。
『恋愛相性1%の僕たち私たち』
キャラクター性:7
ストーリー性:7
画力:9
構成力:8
オリジナリティ:10
評価者 氷室 みたいな感じ。
「金賞や佳作の評価も見ておく?」
「いいのですか?」
「折田ジューゴ先生とは、子どもマンガ教室の同期なんだよね。気になるでしょ、ほら」
【金賞】
折田ジューゴ作。
『無道勇者ムドーの無法道』
キャラクター性:9
ストーリー性:8
画力:7
構成力:8
オリジナリティ:8
【佳作】
『パワー・オブ・オプティマイザー』
キャラクター性:7
ストーリー性:8
画力:7
構成力:6
オリジナリティ:6
【佳作】
『俺が魔王で、あいつが勇者で』
キャラクター性:6
ストーリー性:7
画力:8
構成力:6
オリジナリティ:7
1作目の『無道勇者ムドーの無法道』と3作目の『俺が魔王で、あいつが勇者で』は、タイトルからおおよその世界観が伝わってくる。
2作目の『パワー・オブ・オプティマイザー』はまったく予想がつかない。
ロボット系かな? 変身ヒーロー系かな?
ラブコメはリョウのみ。
もう1作あると思ったが……。
オリジナリティを出すのが難しいのかな?
あと、ラノベ風の異世界ファンタジーが2作か。
最近のトレンドが反映されているな。
ちなみに賞金は、金賞30万円、銀賞20万円、佳作10万円となっている。
「今回受賞した4作品は、隔週で発売されている雑誌に順番で掲載されます。20号が『無道勇者ムドーの無法道』だから、21号が『恋愛相性1%の僕たち私たち』になるね」
しかも原稿料をくれるらしい。
やったね!
「はいは〜い!」
とアキラが挙手。
「折田ジューゴと無量カナタの評価点は、ほとんど互角ですが、明暗をわけたポイントはどのあたりでしょうか?」
それ!
リョウも気になった!
だって、評価シートを見ても、負けている気がしないから!
「それね……」
氷室さんは、よくぞ聞いてくれました、というように腕組みする。
「正直、俺は無量カナタ先生を推しました。だから、担当編集に選ばれたわけであって」
しかし、周りの反応は違った。
ラブコメはやや飽和気味。
これからは異世界ファンタジーを描けるマンガ家がほしい。
マーケットとの兼ね合いがあり、折田ジューゴを推す声が強かったのだ。
「実力だけでは決まらない。需要と供給のバランスなんだ。その点は理解してくれ」
「むぅむぅ〜」
「無量カナタ先生の助手くん、リアクションが多彩だね」
「そういう芸風なんで。気にしないでください」
「にゃにゃにゃ⁉︎」
というわけで話の続き。
「新人の中だと、無量カナタ先生はトップクラスの存在だ」
「そんな、そんな、恐れ多いです」
「別に
グサッ!
氷室さん、持ち上げてから落とす人か⁉︎
「今回の受賞作のダメなところを挙げるとね……」
まずテーマが小難しい。
自由恋愛禁止といわれても、小学生とか中学生にはピンとこない。
そして、説明を詰め込みすぎ。
絵で表現できることは絵で表現してほしい。
小説じゃないんだから。
あと、主人公とヒロインの顔が似ている。
髪型や服装で誤魔化しているようだけれども、プロが読むと違和感がある。
「……はい」
「いや、落ち込まなくていいよ。わりとハイレベルの指摘をした自覚はあるから。というか、プロのマンガ家でも難しいポイントだから。……そうそう、この恋愛警察って設定、ジョージ・オーウェルの思想警察がモデルじゃないの? 正直、ビビったよ。高校生なのにオーウェルをぶち込んでくる新人がいる! て編集者会議で話題になったくらいだし」
「よくぞ気づいてくれました! そうです、1984年をリスペクトしています!」
「なるほど、助手くんが読書家なのか。どうりで……」
これからの方針について。
氷室さんは2つ提示してくれた。
『恋愛相性1%の僕たち私たち』の話を膨らませて、この作品で連載を目指すのか。
まったく別の話を考えて、そっちで連載を目指すのか。
「無量カナタ先生は、WEB投稿サイトでもマンガを描いているよね」
「はい、RPGみたいな異世界のやつ」
「全部読ませてもらいました」
早い!
けっこうボリュームあるのに!
さすが編集者!
「異世界ファンタジーもいいけれども、ラブコメで勝負すべきだと思う。折田ジューゴ先生に負けて悔しいだろうけれども……。もちろん、強制はしない」
人気の異世界ファンタジーで勝負すべきか。
得意のラブコメで勝負すべきか。
「どうする、リョウくん」
「う〜ん」
ラブコメに絞ったとしても、選択肢はたくさんある。
正統派か、邪道か。
シリアス寄りか、コミカル全開か。
男性向けか、万人向けか、対象年齢は……。
かなり迷う。
体が3つあれば、作品を3つ描いて、一番自信のあるやつを送りたい。
「撃てる弾は一発ですよね。2つ作品を仕上げても、氷室さんが片方を選ぶわけですよね」
「もちろん。実績のある先生じゃないと、ネームを2本描いて、どちらも会議に回す、なんてことはできないよ」
「もし連載を目指すなら……俺は……」
リョウの出した答えは。
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