第334話

「不破せんぱ〜い! もう会えなくなっちゃうのですね⁉︎」

「あはは……会えないは言い過ぎかな」


 これと似たような会話があちこちで散見された。

 プレゼントを渡す人、ボタンを一つもらう人、一緒に写真を撮る人など。

 本当に卒業式が終わったのだな、という実感が湧いてくる。


「ユズリハも不破先輩と一緒に卒業したかったです!」

「えっ? だったら、一緒に卒業しちゃう?」

「ダメですよ〜! 同級生になっちゃうじゃないですか⁉︎ 恐れ多い!」


 アキラは最終日までモテモテ。

 相変わらずの人たらしであり、見ていて本当に飽きない。


 教室で卒業証書と卒業アルバムをもらった。

 どこに誰が写っているとか、そんな話で盛り上がった。


「なつかしいね〜、北海道」

「おい、アキラ、お前は不参加だろうが」

「あ、そうだった……」


 それから卒アルの寄せ書きページにコメントを送り合うことに。


「リョウくん、あれやってほしい」

「ん?」

「文頭の文字を縦読みしたら、アキラだいすき、みたいになるやつ」

「明日な。今晩、作文するから。即興で書くのは無理」

「むぅ〜」

「無茶振りだよな」


 アキラは人気者だから、寄せ書きページがすぐに埋まった。

 リョウの卒アルにも、

『大物マンガ家になれよ』

 みたいな言葉がつらつらと並ぶ。


 担任の先生には、みんなからの色紙をプレゼントする。

 真ん中のところに似顔絵のイラストがついているやつ。


「お、この似顔絵を描いたの、宗像だな。自分でいうのもなんだが、似てるな〜。何かコツとかあるの?」

「そうですね。実物より10%増しで美男美女に描くことですかね」

「あっはっは! いってくれるな!」


 気に入ってくれたらしく、担任は終始ニヤニヤしていた。


 ラストに記念撮影しておく。

 アキラがど真ん中で、その左右をアンナとキョウカが固める。

 リョウとかミタケは平均より背が高いから、後列の端っこが定位置。


 いったん解散したあと、クラスメイトで再集合する予定になっている。

 いい感じのホテルでビュッフェ形式のランチ会なのだ。


 ここでの話題の中心はもっぱらアンナ&ミタケだった。

 2人とも同じ大学に通うから、将来のことをあれこれ詮索されて、結婚披露宴さながらの雰囲気だった。


「今後の予定は?」

「指輪の予算は?」


 みたいな質問をされて、


「気が早いわ、バカ」


 と赤面したミタケが返すシーンがあった。


「リョウくん、リョウくん、僕も何かプレゼントがほしい」


 アキラが悪ノリしてくる。


「何がほしいの?」

「猫付きの家、できれば一軒家」

「うわぁ……すげぇプレッシャー」


 それを近くで聞いていた女子が、


「不破くんと宗像くんは一緒に住まないの?」


 と冷やかしてきて焦った。

 笑って誤魔化しつつ、いちおう同棲する予定です、と心の中で返しておく。


 ジュースが行き渡ったところで乾杯する。

 誰が音頭を取るんだ? という話になり、アキラとアンナが押しつけあった末、なぜかリョウに決まった。


「スピーチとスカートは短い方がいい、という格言もありますから……」


 適当に笑いを取ってから乾杯。

 ビュッフェは100分のコースだったけれども、話題がたくさんあるから、時間を持て余すなんてことはなかった。


 高校3年生の同期。

 一緒に受験勉強をがんばってきた仲間みたいな絆がある。

 たぶん、楽しいことより辛いことの方が多かったけれども、だからこそ理解し合える部分って確実にある。


「いつか同窓会やろうよ〜」


 気の早い女子が言い出す。


「成人式のタイミングにする? それとも、大学卒業の前にする?」


 とある男子がのっかる。


 誰かがリョウの肩をちょんちょんしてきた。


「予定通り、今夜は校門前集合ね」


 遊び人っぽく小指のジェスチャーを向けてきたのはキョウカだった。

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