第50話

 散歩から帰ってきたあと。


「すっずしぃ〜!」


 クーラーの効いた部屋でゴロゴロしまくった。


「エアコンは偉大だねぇ〜。発明者の名前を教科書に載せるべきだよ〜」

「そうだな。大学の教科書には載っているかもな」


 真夏日、かつ、昼下がり。

 だからエアコンも元気がいい。


「そうだ! アキラ!」


 リョウはガバッと跳ね起きる。


「まだ水着を着ていない」

「うぅ……リョウくん、いま食後だから……ほら、お腹が……」

「アキラは元からせているだろう。それに食が細い」

「むぅ〜」


 アキラが床を転がって逃げる。


「あと10分だけ涼ませて」

「はいよ」


 無防備な女の子って。

 猫みたいでかわいいな。


 ちょうど10分後、ピピピッとタイマーが鳴る。


「それじゃ、僕も一肌脱ぎますか!」

「本気のアキラを見せてくれ」

「ちょっと重いなぁ……」


 アキラは脱衣所へいくと、新しい水着をまとって、その上からパーカーを羽織はおって出てきた。


 リョウも海パンとTシャツに着替える。


 海岸のところで流木を拾った。

 ステージ代わりの砂浜に平行線を引いていく。

 即席のランウェイが完成だ。


 観客はリョウだけ。

 空も、雲も、海も、独り占めならぬ二人占め。


「リョウくん、撮影をお願いできる?」

「任せとけ。きれいに撮ってやる」

「ではでは……ミュージック、スタートなのです!」


 重厚なBGMが流れてくる。

 アキラの足がリズムを取り始める。


 この時点ですごいオーラ。


 脚をピンッと伸ばして、モデルウォーク開始だ。

 早歩きなのに頭の位置が少しもブレない。


 あっという間に折り返し地点までやってきた。


 ガバッと。

 アキラがパーカーを脱いだ。

 派手すぎないホルターネックの水着が出てくる。


 リョウと目があう。

 流し目にドキッとする。


 空中に投げられたパーカーは、鳥みたいに滑空かっくうしたあと、あわや着水という位置に落っこちた。


 モデルさんみたいに何種類かポーズをとってから、180度ターン。

 あとは来た道を戻っていく。


 リョウはビデオの停止ボタンを押した。


「どうだった?」

「きれいな歩き方をしていた」

「そっちじゃなくて水着の方だよ」

「すまん……撮影するのに夢中で……」


 コメントを考えていなかった。


「エレガントで、似合っていたと思うぞ。あと腰回りがとても色っぽかった」

「あっはっは。リョウくん、口達者だ」

「本心だよ」


 二人でムービーをチェックしてみることに。


「では、リョウ監督、今回のプロモーションビデオは何点ですかね?」

「難しい質問だな。まあ、初回だから、90点くらいでも上出来なのではないでしょうか」

「モデルのアキラさんの出来栄えについても一言お願いします」

「え〜と……そうですね……日頃の努力の成果が出ていると思いますよ……はい、本当に」

「あっはっは。父親みたいなコメント。保護者っぽい」

「仕方ねえだろうが……」


 ベタ褒めすると、すぐ調子に乗るから。


「海水で遊ぶの、二年ぶりかも」

「俺もだ」


 携帯を置いて、いざ波の中へ。

 ぴちゃぴちゃと海水をかけ合って遊ぶ。


「うわっ⁉︎ 口の中に入っちゃった!」


 アキラの笑顔がはじける。


「お返しだ!」

「つめてぇ!」


 足に海藻がからまって、ひっくり返りそうになった。


「リョウくん、砂のお城をつくろうよ」

「なんだ? また勝負する気か?」

「違うよ。二人の協力プレイだよ」

「たしか、物置きに園芸用のスコップがあったはず」


 リョウが砂を掘りまくり、アキラが形にしていった。

 すると名古屋城みたいなオブジェが完成した。


「アキラ、天才だな。写真を見ずに、そのクオリティを生み出すなんて」

「えへへ、やっぱり芸術的センスに恵まれているのかな〜」


 天守閣にシャチっぽいのを載せたら完成。


「お城の名前はどうする? 宗像城?」

「いや、不破城の方が10倍くらい強そうだ」

「う〜ん、だったら……」


 アキラが砂地に『リョウくんとアキラさんのお城』と書き残す。


「風で崩れてしまう前に、画像データとして保存しておこう」


 リョウがそういい、二人で交互に写真を撮った。


「携帯のフォトだと感動が伝わりきらないね」

「0と1の電子データに俺たちの感動が収まってたまるか」

「おおっ! リョウくんの名言、いただきました!」


 そういって笑いあった。

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