第104話

 げぇ……。

 この世で一番メンドクサイ男に絡まれたな。


「俺の知らない人だ。他人の空似だろう。いくぞ、アキラ」

「えっ……あっ……うん」


 リョウがスルーして通り過ぎようとしたら、男はギュンッと先回りしてきた。


「待ちやがれ! この無骨ヤロー!」

「なんですかね、このヤンキーヤロー」

「ほら、やっぱり宗像じゃねえか〜! 無視すんなよ〜! ツレないな〜!」


 小学校からの友だちみたいにベタベタしてくる。

 苦手なんだよな、こういう性格が。


「つ〜か、折田おりた、その頭は大丈夫なのかよ? まさかの不登校ですか、おい」


 トサカ頭&半分金髪のヘアスタイルを指しながらいう。


「どうだ! マンガ家っぽいだろう!」

「いや、全然……むしろユーチューバーっぽい」

「おっかしいな〜」


 こいつの名は折田ジューゴ。

 子どもマンガ教室の同期。


 なぜかケンカ腰でリョウに絡んでくる。

 あと、一方的にライバル視してくるから困っている。


 リョウが引っ越して、関東に住んでいるジューゴとは疎遠になったけれども、お互いの近況をネットでチェックするくらいの仲だ。


「高校はやめた」

「はっ⁉︎」

「マンガのため、登校日の少ない通信制に切り替えた」

「いやいや、せめて一般の高校くらいは……」

「でも、アイドルとか芸能人が同級生なんだぜ」

「こいつ……」


 バカだ。

 マンガを中心に生きている。


「それに、俺、いちおうプロだし」

「でも、仮免みたいな状態だろう」

「とはいえ、プロだし」


 そうなのだ。

 マンガでお金を稼いだ経験がある人=プロ、とするならば、折田ジューゴは紛うことなき高校生プロ。

 ただ、処女作にかなり問題があって……。


「お前の作品、ネットで炎上してたな」

「ヒーローに困難は付き物だろう」

「まあ、ねえ」


 ちょっと有名なWEB小説に『転生したらホイミスライムだった件』という作品がある。


 略して『転ホイ』。

 あの超々々人気作品のパクリである。


 ジューゴはこのコミカライズ(全10話)を担当した。

 炎上を恐れた他のマンガ家さんが逃げて、無名のジューゴが引き受けたところ、案の定、大炎上したのである。


 本人のために弁解しておくと、ジューゴに非はない。

 あと、パクリ作品という一点を除けば、内容は中々おもしろい。


 ただ小説版『転ホイ』が模造品だった。

 今年のクソラノベ断トツ1位に選ばれるくらい嫌われていた。

 それだけの話。


「転ホイの連載終了、早かったな」

「あんなの、俺にとっては練習よ。ただの踏み台としか思っちゃいねえ」

「ひでぇ……」


 まあね。

 捨て石と思ったから、出版社もジューゴを起用したのだろう。


 コミカライズの闇だな。

 原作&作画といっても、冷泉&添木のような、ハートフルな絆は毛ほどもない。


「コミカライズでプロデビューって、限りなくグレーだろう。マンガ家志望に逆戻りなんじゃ……」

「いいや、ふたたび連載を手にする日も近い。しかも、今度は原作なしの完全オリジナル作品」

「そうなの?」


 ちょっと聞き捨てならない。


「宗像は……」


 xxx社の新人賞に応募したよな?


「まあな……」


 いま結果待ち。


「今回の金賞、俺だ」

「はっ⁉︎」

「だから、担当者から電話があって、俺の作品が金賞に決まった」

「おい⁉︎」

「金賞は毎年、一本だ。そして高確率で連載にぎつける。つまり、俺の勝ちだ」


 このっ!

 大バカっ!


 公式の結果発表がまだなのに⁉︎

 俺が金賞ってバラすやつがあるか⁉︎


 そういうのって、普通、ご家族や友人にも内緒に……て念を押されるだろうが!

 下手したら金賞を取り消されるぞ!


 このトリ頭め。

 しかも、リョウが負けたとか2倍悔しい。


「どうだ! 子どもマンガ教室のときは宗像が1位で俺が2位だった! でも、今回は俺が1位だ! がっはっは!」


 ああ……。

 頭が痛くなってきた。


『次世代のマンガ家の中核を担えるような素晴らしい才能』に贈られる新人賞グランプリが、折田ジューゴか。


 くそっ……。

 癒着ゆちゃくじゃねえよな。

『転ホイ』の人柱になったから、その埋め合わせとか。


 いやいや、実力か。

 ジューゴに超高校生級のスキルがあるのは事実。

 素直に拍手しておくべき。


「まあ、俺は世代のトップを目指す男だ。つまり、あの四之宮レンをぶっ倒す。連載スタートなんて、ほんの第一歩よ。四之宮レン世代とはいわせねえ。折田ジューゴ世代と呼ばせてやる。そして、宗像リョウ、お前も折田ジューゴ世代の一人にしてやる」

「うわぁ……嫌だなぁ……素直に四之宮レン世代でいいよ。つ〜か、折田、四之宮先生に勝っている要素、一個もないだろう。よく折田ジューゴ世代とか思いつくよな」

「うるせえ! 男は伸び代なんだ! 後半からギューンッて伸びてくるんだよ! 女は早期成熟で、男は大器晩成なんだ!」


 この女性軽視ミソジニーみたいな発言。

 また『大炎上』⇨『打ち切り』を食らわないか心配だな。


「俺たちはプロの舞台で決着をつけるべきだ! だから、お前もさっさとプロの土俵に上がってこい!」

「おう、がんばる」

「なんだよ! もっと悔しがれよ!」

「あのな……別に、マンガって、優劣を競うものじゃない……」


 すると、黙って話を聞いていたアキラが進み出てきて、


「リョウくんがお前みたいな目つきの悪いヤンキーに負けるわけないだろう!」


 人差し指を向けながらいった。

 ジューゴは一瞬、ポカンとなる。


 アキラの頭からつま先を舐めるように見つめて……。


「うおぉぉぉぉ⁉︎ 宗像が女を連れてる⁉︎ しかもメチャクソかわいぃぃぃ!」


 ギャグマンガの人物みたいに飛び跳ねた。

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