第251話

 バスケットの神様は、須王ミタケを見捨てる気がないらしい。


 試合終了後。

 バスケットの関係者が、監督とミタケに声をかけていた。

 東京の大学のスカウトだった。


 大学でもバスケを続ける気はあるのか?

 そのつもりなら、うちからスポーツ推薦すいせんを出す。


 これは渡りに船の提案だった。


 ミタケはその場で前向きな返事をした。

 来春から通うべき大学が、他のクラスメイトよりも先に決まった。


 ところ変わって喫茶店。


「えっ〜⁉︎ 宗像くんと不破くん、大学生になったら、一緒に住むの⁉︎」


 頓狂とんきょうな声を上げたのはアンナ。

 目ん玉が飛び出そうなくらい驚いている。


「まだ確定じゃないけどね。一緒に住むかどうかは、リョウくんのがんばり次第ってところかな」


 アキラがストローを回すたび、氷がカランコロンと涼しい音を奏でる。


「それは、つまり、お互いのご両親へあいさつを済ませたということですか⁉︎」


 興味があるのはユズリハも一緒らしい。


「そうそう。この前、リョウくんが手土産を持って、僕の家へやってきて……アキラくんをお嫁さんにください……と」

「ど……ど……どうなったのですか⁉︎」

「思いっきり怒られたよ」

「まあ⁉︎」


 怒られたのはアキラの方な。

 という指摘は隠しておく。


「まだ20歳にもなっていないのに同棲なんて早い! お父さんは認めんぞ! みたいな感じ」

「そんなドラマみたいな展開、あるのですね」

「うん、大変だったよ」

「他にはどのような点を責められたのですか?」


 ここから先はアキラの捏造ねつぞうタイム。


「やっぱり、妊娠のリスクとかだね。僕のお父さん、病院の関係者だからさ」

「えっ? 妊娠?」


 アンナとユズリハの目が点になる。


「男同士なのに? 妊娠なのですか?」

「そっか、ユズリハさんは知らないんだ。深い深い愛情、トゥルーラブがあれば、男同士でも妊娠できるんだよ」

「本当なのですか⁉︎」

「男を孕ませてこそ真の男、みたいな格言があるだろう」

「初耳です!」


 そんな格言、ねえよ。

 というか、真昼間のカフェで、よくBLの話ができるな。


「つまり、宗像先輩なら、不破先輩をお母さんにできるのですね⁉︎」

「かもしれない。そうなったら、僕たちはアダムとイブの時代より伝わっている性別というゲノムシステムに、1つのくさびを打ち込むことになる」

「なんとスケールの大きい⁉︎」


 信じやすいユズリハがおもしろくて、アンナは含み笑いしている。


「この話は秘密だよ。男性が男性を妊娠させること、女性が女性を妊娠させること、この2つは日本政府により禁止されている」

「どうしてですか⁉︎」

「男性と女性の区別が曖昧あいまいになるからさ。お役人っていうのは、何でも分けたがる生き物なんだ。アフリカ大陸に縦々横々の国境線が走っているみたいにさ。そうやって、自分たちのパワーを示さないと死んじゃう生き物なんだよ。あのルールは俺が決めたんだ、という功績を天国まで持っていきたいんだ。アフリカ大陸は、国境なんてない状態が、一番きれいなのにね」

「へぇ〜。そのような仕組みがあったなんて……」


 ユズリハの目はキラキラと輝いており、黙るしかできないリョウを複雑な気持ちにさせた。


「ちなみに、2人はどこまで済ませたのですか?」

「えぇ〜、それを訊いちゃう?」


 なぜかアキラがリョウの方を見てくる。


「ねぇねぇ、リョウくん、どこまで済ませたの?」

「さあ、キスくらいじゃないか」


 きゃ! と悲鳴が上がった。


「本当にキスしちゃったの⁉︎」


 とアンナ。


「お互いの誕生日とかに。思い出に残るものって、欲しいと思うから」

「はぁ〜。愛が深いんだね〜」


 やっちゃった。

 アンナを騙しちゃった。


 いやいや。

 リョウは悪くない。

 元はといえば、アキラが性別を隠して、その状況を楽しんでいるから。


「でも、雪染さんだって、キングと何回かキスしているだろう?」


 リョウは切り返しておく。


「うぅ〜、それは〜、まあ……」


 初雪みたいなアンナの頬っぺたがピンク色に染まっていた。

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