第233話

「嘘だろう……」


 リョウは絶望していた。

 自分の頭の悪さにえていた。


 4月に受けた全統模試のスコアが、GW明けに返ってきたのである。

 結果はものの見事にD判定とE判定のオンパレード。


 おいおい。

 C判定を何個か、あわよくばB判定を期待したのに。


 そういえば、4月の模試は、現役生がやや不利で、浪人生がやや有利、みたいな話を聞いたことがある。

 夏休みが過ぎて秋くらいになると、現役生が盛り返してくるのだとか。


 それにしても、だ。

 D判定とE判定しかもらえないのはヤバい。

 自分のレベルを高く見積り過ぎた、残念すぎる男じゃねえか。


「きゃ〜!」

「すごすぎっ!」

「さすがイケメン王子様!」


 黄色い声の中心にいるのは、もちろんアキラ。


「全部A判定とか!」

「まだ5月なのに楽勝じゃん!」


 グサッ!

 ショッキングな一言が胸に刺さった。

 そこに担任まで加わって、


「不破はもう少し志望校を引き上げてもいいのでは?」


 みたいな話をしている。


「いえいえ、偶然のA判定かもしれません。慎重に考えてみます」


 これはマズいぞ。

 リョウとアキラは同じ大学を志望校に書いておいた。

 このままだと、リョウが落ちて、アキラだけ受かっちゃう。


 なあ、アキラ、志望校のレベルを下げようぜ〜。

 とかいったら、死ぬほどダサいしな。


「どしたん、宗像?」


 キョウカがやってきて、ちょこん、と机にひじをのせる。


「模試の結果が悪すぎて悶絶もんぜつしている」

「試験は9ヶ月先でしょう。これから勉強したらいいじゃん」

「これでも、11年間勉強してきたんだけどな。俺がまったく勉強してこなかった、みたいな言い方は勘弁してほしいな」

「でも、本気で勉強してこなかったでしょう?」

「まあ、たしかに……」

「マンガに投資している情熱の4割でも、勉強に割いたらいいのでは?」

「なるほど、その手があったか」


 キョウカのスコアを見せてもらった。

 さすがお金持ち、有名な私立が並んでいる。

 結果はA判定とB判定が半々くらい。


「神楽坂さんって、国公立は受験しないの?」

「受けない。家の方針なんだ。文句があるなら、うちの親にいってくれ」

「いや、文句はないけどさ」


 キョウカと比較してしまったせいで、自分のD判定とE判定が、ますます見窄みすぼらしく思えてきた。

 繰り返しになるが、この11年間、勉強してこなかったわけじゃない。


「神楽坂さん、アイディアをくれないか? 何としてもアキラと同じ大学にいきたいんだよ」

「大学のロケーションは? 東日本? 関東圏?」

「そうだね。ぶっちゃけ、俺の学部は何でもいいんだ」

「なんだよ、不破キュンとデートするために大学へいくのかよ」


 キョウカは爆笑していたけれども、言い返すことはできなかった。


「不破キュンは英文科志望だよね。けっこう偏差値が高いよね。同じ大学の中で、もっとも偏差値が低い学部を、宗像が受ければいいのでは?」


 キョウカは分厚い冊子をとってきて、パラパラとめくりはじめる。


「これが大学と学部ごとの偏差値。ほら、同じ大学でも、学部によって偏差値が全然違うだろう。まあ、医学部は別格として……」

「あ、本当だ」


 傾向としては、文系の学部が高くて、理系の学部が低い。

 中には10くらい差があるケースも。


「システム〇〇学部、〇〇IT学部、〇〇情報学部、こういう名前のところって、大学のネームバリューの割には、偏差値が低いよね。ほら、ここなんて倍率1.1倍だよ。ほとんど受かるじゃん」

「たしかに。文系なのか、理系なのか、分からない学部もあるよな」

「宗像はマンガを描くんだろう。だったら、不人気の農林水産も狙い目じゃないかな。マンガのネタになりそうだし」

「ふむふむ」


 林業に水産業。

 イメージ的には若者が敬遠しそう。


 これまでの情報をまとめると……。

・何やっているのかイメージしにくい学部は偏差値が低い

・文系と理系の中間みたいな学部も偏差値が低い

・同じ大学でも、学部によって、偏差値が10くらい変わる


 つまり、ポピュラーな文学部、法学部、経済学部は避けろってことか。


「何やってんの、2人とも」


 アキラが後ろからツンツンしてきた。


「俺が入れそうな学部を探している。というか、関東圏の国公立、まあまあレベルが高くて焦っている」

「焦るって、まだ5月じゃないか。そんなに気張ると、息切れしちゃうよ」


 アキラは余裕ぶって笑っているけれども、D判定とE判定しか取れなかった人間にとっては、死活問題なんだよな、これが。

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